次の日学校に行くと、昨日の事を見ていたクラスメイトからの視線が痛かった。けれど誠が口止めしてくれたのか、あの靴箱のことで声を立てて騒ぐ奴はいなかった。
既に期末試験が終わり、あと数日で夏休みに入るということもあってか教室内は浮かれた雰囲気に包まれている。
俺は夏休みの間中、ずっと寮にいるつもりだった。帰っても喜ばれないどころか邪険にされるのは目に見えている。
「誠は夏休みは帰省するだろ?」
「んー…俺も帰らない」
「えっ…」
「優帰らないんでしょ?寮に一人とかつまんないだろうし。他に残る奴も何人かいるかもしれないけど…」
「いや、そんな俺のこと気にしなくても」
「でもさ、ストーカーのこともまだ心配だから…」
少し声を落とし、表情を暗くして誠は言った。なんで俺なんかの為にそこまでしてくれるんだろう。誠なんて色んな人から遊びの誘いがあるだろうし、帰省したら両親も喜ぶだろうに。
あまり俺のことばかりを優先しないで欲しい、と言うと
「俺がしたくてしてるんだよ。」
と返されてしまい、そこで夏休みの話はおしまいになった。
「よっ…、と」
帰省はしないものの、とりあえず夏休みを迎える前に部屋の掃除でもしようかと、プリント類の入った段ボールを持ち上げた。あと三日で夏休みに入る。返ってきたテストも分けて保管しておかないと。
誠がシャワーを浴びている音が聞こえる。一日の中で二人一緒にいないのは、もはやトイレとシャワーの時くらいだ。
「あっ…」
段ボールを置こうと重心を下げた瞬間、バランスを崩して上半身が右に傾いた。俺の体を受け止めたのは、俺の机と隣り合っている誠の机で、揺れた拍子に乗っていた封筒や文房具が床に散らばった。
「やば、ごめん誠…」
本人に聞こえるはずもないが、咄嗟に謝罪の言葉が出る。慌てて落としたものを拾おうとすると、封筒から中身が流れ出てしまっていた。
(……写真?)
封筒に仕舞おうと手を伸ばしてその写真を見た瞬間、俺は自分の目を疑った。
「…ぉ、れの…写真…?」
完全にデジャヴだ。写真に写っている俺は明らかに自分が撮影されていることに気づいていない。どこからどう見てもストーカーからの手紙に入っていたのと同じタイプの盗撮写真だった。
どうして誠がこんなものを、ストーカーからの手紙はいつも誠が俺の目の前でゴミ箱に捨てているし、それを後でわざわざ拾うわけがない。
まさか、まさか…
俺は震える手で誠の机を漁った。
封筒と便箋、いつもストーカーからくる手紙と同じもの。
なくなったタオルや体操着、ところどころかぴかぴと固まって異臭を放っている。
思わずその場にへたり込む。
体の震えが止まらない。
嘘だ、こんなの、だって、これじゃあまるで……
「あれ、見つけちゃった?」
背後からの声に思わず体が跳ね上がった。乱れる呼吸を整えようとするが、どうしても上手く息が吸えない。
後ろを振り向くと、いつも通り穏やかな微笑みを浮かべた誠が、濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら立っていた。
いつも通りのはずなのに、その目には明らかに熱が宿り、舐め回すように俺の事を見る。
ああ、俺はこの視線を知ってる。
「もう少し怯える優を楽しんでからバラすつもりだったんだけどな、まぁ見つかっちゃったならしょうがないよね」
「…な…なんで…っ、」
「一番近くで見てるって書いたじゃん、俺」
「…うそ、嘘だっ…、ぅ、」
「嘘じゃないよ、ホラ」
誠は手に持っていたスマホを操作すると、画面をこちらに見せた。開かれていたのはデータフォルダで、ずらっと写真のサムネイルが並んでいる。
……全部俺の隠し撮りだった。
「ね?」
こわい、俺の目の前にいる一体これは誰だ?
強張った体を無理やり動かし、床にに座ったまま後ずさる。俺が誠との距離を取ろうとすればするほど、誠が俺に近づいて距離を詰める。怖いのに誠から目が離せなくて、そのまま後ずさっていくと壁に背中がぶつかってしまった。
「や…っ、だ……くるなっ…」
「あ、その顔も可愛いね」
楽しそうに言いながら、スマホのカメラを俺に向けてカシャッとシャッターを切る。咄嗟に目を瞑り下を向くと誠が俺の目の前にしゃがみ込み、俺の背後の壁に手をついた。
「ゃ、ゃ…っ、いやだっ、ぅ…嘘、うそ、なんで…っ!」
「嘘じゃないって。俺が優のストーカーさんだよ。」
顎を掴まれて、無理やり誠と視線を合わされる。誠の眼球に映った自分が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「すごいでしょ、あの写真。頑張って撮ったんだよ。すごく小さい隠しカメラ、部屋とか教室とかに仕掛けてさ、」
「ひっ…、っ…」
「優の靴にぶっかけるのもすごく興奮したなぁ、でも体操着とかの匂いを嗅ぎながらするのも好きなんだ」
「…ゃ、やだぁ…っ、ひぅ、ぅそ、ぅそだ…っ、とも…だちっ…なのに…!」
「……友達?俺は優のこと友達だなんて思ったこと一度も無いよ」
「っ!…!?」
その言葉に絶望する間も無く、誠の唇が俺の唇に押し付けられた。
誠の胸を拳で叩いて抵抗するも行為は止まらず、むしろエスカレートし口内に舌が侵入してくる。慌てて自分の舌を喉の方に隠すも誠の舌の熱さに翻弄されて、あっという間に捉えられる。
「んぐっ、〜〜っ!んぅ!!……っはぁ、はっ」
「……はぁ、あはは、優と俺の唾液で口の周りぐちゃぐちゃ」
「…っ、はぁ、は…」
酸素不足で頭がくらくらする。
涙で滲んで誠の顔が分からない。
「ね、好きだよ、優。初めて会った時から可愛いなって思ってたんだよ?優が初めて俺に笑いかけてくれた時は本当に嬉しかったなぁ。その日は三回も抜いちゃった。」
「ぅ…ぃゃ…嫌だっ…!」
「最近のストーカーに怯える優も本当に可愛かったよ、でも犯人が俺で嬉しかったでしょ?こんなに愛されてるんだって実感したでしょ?」
「ゃ、やだぁっ!ぉ…ぉねが、や…やめ…っ」
「友達じゃなくて恋人になろうよ、たくさん気持ちよくしてあげるから」
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