cage 1-2 | ナノ
俺は誠くらいしか親しい友達もいないこともあって、もともと生活の大部分の時間を誠と過ごしていたが、ストーカー対策に毎日必ず一緒に登下校し、心配だからとトイレまで付き添うようになり、当然寮でも一緒なのだから、もはや24時間の中で誠と離れている時間はほぼゼロに近くなった。
そのおかげかは分からないが、執拗な視線は幾分マシになり、物が無くなることもなくなって、手紙もたまに靴箱に入っていても俺が見つける前に誠が処分してくれるようになった。





「お疲れ様」

委員会の集まりを終えて、小会議室から出ると誠が二人分の鞄を持って待っていた。自分の鞄を受け取ってお礼を言い、階段を降りて靴箱に向かう。

「なんか、色々ほんとにありがとな。おかげで大分マシになってきたし…」
「いいっていいって。俺も優とたくさん一緒にいれて楽しいし」

俺みたいな暗くてつまらない奴と一緒にいて楽しいなんて、本気で思ってくれてるとは思えないけど、それでも優しい言葉をかけられれば自然と顔が綻ぶ。

「…ありがと」




一階まで下り、靴箱が近づくとなんだか騒がしい声が聞こえてきた。何かあったのかと不思議に思い少し早足で向かうと、4〜5人のクラスメイトが俺たちのクラスの靴箱の前で「なんだよコレ…」「先生呼んだ方がいいんじゃね?」と騒いでいた。
そのうちの一人がこちらに気づくと、「あっ、佐倉…」と俺に向かって困惑の目を向ける。


「なにかあった……、!?」


皆の視線の先は俺の靴箱だった。
いつも通り通学用のローファーと、体育用のシューズが入っている。
でも、一つだけ決定的に違うところがあって、俺は声を失った。

「…な……、っ……」

俺のローファーには、どろっとした白濁液がかけられていた。男なら見覚えのあるその液体、さらに周辺に広がる青臭いにおいに思わず鼻と口を手で覆い、下を向いてしまう。


「…ぅ…っ、」


気持ち悪い、気持ち悪い、気持ちの悪い、気持ち悪い…!
なんで、誰がこんなこと、


「優…!大丈夫?」

後ろから誠に肩を抱かれ、その手の温かさに緊張の糸が切れた俺は、思わずその場で意識を失ってしまった。





目が醒めると白い天井、白いカーテンが視界にあった。どうやら保健室のようだ。ふと顔を横に向けると心配そうな顔をした誠と目があった。

「優…!」
「…まこ、と」
「よかった、いきなり失神するから吃驚したよ…起きれる?」
「ん…」

ベッドの上に起き上がり、ホッとした表情の誠と向き合う。どれくらい気を失っていたのか分からないけれど、ずっと一緒にいてくれたんだろうか。


「靴は先生に処分してもらったよ、新しいの買うまでは運動シューズ履けって」
「ん…」
「それから不審者対策に警備を強化してくれるって。犯人見つかるといいね…」
「…なんか、ごめんな、色々」

あんな気持ちの悪いもの見せられて、誠も少なからず不愉快な気持ちになったんじゃないか。俺の為にいつも一緒にいてくれて、嫌なことに巻き込んで。弱い自分がカッコ悪くて、俯いた瞳に涙がじわ、と滲んだ。


「優は何も悪く無いよ。謝らないで。」


シーツを握った俺の手に、誠の手が重なる。顔を上げると誠はいつものように優しく微笑んでいた。
その顔を見た瞬間、堪えていたものが一気に溢れ、恥も外聞も無く泣いてしまった。誠は俺が泣き止むまで手を握り、背中をさすってくれて、誠が俺なんかと友達になってくれたことに改めて感謝と喜びがこみ上げてくる。


その日は疲れが溜まったのか、寮に帰ると俺はすぐに眠ってしまっていた。


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