泣かない(鋼錬/エドアル)
2019/07/30 03:04
アルフォンスは料理ができない。幼い頃に母を亡くし、その前に父は家を出ており、その後は幼なじみの家に厄介になり、錬金術を学ぶための修業先では兎や魚や蛇を焼くだけのものを食べ、それが終われば今度は師匠が食事を用意してくれた。
まともな料理を、アルフォンスはしたことがない。
だから、とても困っていた。
「どうしよう」
兄が倒れた。日頃の無理が祟ったようでとても高熱らしく、赤い頬と深い呼吸がより苦しげに見える。
アルフォンスの冷たい鉄の体では、感覚のない体では、兄の苦しみがわからない。見た目よりずっと寒い所を延々と歩いたのかも知れない。風呂上がりにきちんと体を拭かなかったか、ともかく自分の気付かないうちに無茶をさせてしまったのかも、と考え、アルフォンスは後悔した。もっとよく気をつけていればよかった。自分が平気だからといって、他の人間が平気ではないのだと。
「……兄さん」
泣きそうな声が耳元で囁く、エドワードはゆるりと目を開けた。ぼんやりとアルフォンスを視界に捉え、なぜか口を緩める。
ふ、と笑って、「ごめんな」と呟いた。
「心配かけちまったな。……泣くな、アル」
生身の左手で、鎧の兜を撫でる。力の入らない腕だった。
「泣くなよ、アル」
高熱に浮されているのだろう。兄の額に手を置いてみるが、血の通わない手ではやはり熱はわからない。
何か暖かいものでも作ってやりたくてたまらない。ココアでもスープでも、紅茶でもいい。
「……変なの。ボク、泣いてないよ」
泣けるはずもない。
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