初夢がこんなんだと先が思いやられる
2018/01/03 21:20

自分は今眠っているのだ、と自覚しながら見る夢がある。夢のなかでは兄はただ笑っていたし、際限なく僕を甘やかしてくれた。父親と母親らしさを混ぜて兄のなかに練り込んで混ぜたみたいに心地よかった。なのに途中からは、そんな甘くて温かいだけの愛情ではなくて、兄さんの中の熱とか何かに触れるような、そんな渦のなかに押し込められるものに変わった。額に頬に落としてくれたはずの唇は、笑っているのにどこかしら違和感がある。……兄さんはこんな笑い方をする人だった? 良くできたねと頭を撫でてくれた手は、僕を撫でているのに温かいだけでなくて熱い。……こんなに体温のある人だった?優しく弧を描くように細められていた目のなかには、奥の方に一筋光る鋭利さがある。……こんな風に獲物を見る目をする人だった?
これは、この人は、兄さんなのだろうか?
唇の中を埋めるように、舌と唾液が入り込んできて、混ぜるみたいに歯の裏と上顎を舌が撫でていく。息苦しくなっても離してもらえなくて、呻き声も喉を伝って兄さんの中に消えていく。苦しい、くるしい、目の前があかくなっていく、涙が滲んでからだがかたまる、おさえつけられたかおがあつくなっていく、そこまで僕ははっきり覚えていた。突然途切れたのは、僕が夢から覚めたからだった。──これが、僕の初夢だった。
最低の気分だ。どうせなら最後まで進んでくれれば良いのに、なんで盛り上がりかけたところで途切れる……。おかげで昼間から気分が悶々としてまともに頭が働かないじゃないか。「あ、起きた」なんて声をかけてくる兄さんの、のほほんとした顔を見て、ああこの顔で如何わしい妄想を自分はしたんだなと思って、とても悲しくなった。まったくもって、不毛だ。自分と同じ顔なのに、兄弟なのに、なんて事を考えてる……。あけましておめでとう、という挨拶をそれでも聞き逃さずに今年もよろしくと返すと、こちらこそ、と笑って返してくる。何が兄弟だ。何が双子だ。この優しい笑顔を汚した想像で新年が始まっている時点で、今年もいつこの気持ちが爆発するか我慢できなくなるかのチキンレースだ。受け入れてもらえないことくらいわかっている。だったらせめて最後まで弟で居たいと思うことくらい許して欲しい。早く着替えておいで、と小言を残して去っていく兄さんの背中を見ながら、やっとベッドから抜け出して頬を掻いた。今年も兄弟で居たい、今年こそ兄弟だけでない特別になりたい、そんな矛盾を抱えながら、初詣は何処の神社にするかを考えている兄さんと相談をするのだった。聞いてくれる神が居ないところが良いとは、ついに口には出せなかった。



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