僕らは違う月を見ていた(ディバゲ/アオアリ)
2017/04/30 04:15

※キャラ崩壊気味な気がする
※捏造は標準装備




夢を見ている、と理解しながら見る夢がある。いわゆる明晰夢というやつだ。やたらとその意識ははっきりしているし、体の感覚も鋭敏な程だった。
アオトがそれを確かめるように目を開ける。どうやら寝転がっていたようで、肘を地について起き上がると、辺りは一面真っ白なようなクリーム色のような不思議な空気で覆われたところだった。自分の他には何もないのだろうかと思っていたが、周囲を見渡そうとしてすぐに他の存在に気が付いた。
弟が隣で眠っている。穏やかな寝息がそれを物語っている。胸と腹が一定の間隔で膨らんでは萎んでいて、幼い頃に一緒のベッドで寝ていた時の面影が色濃く残った顔をしていた。
夢を見ている。
あどけない顔をして眠る弟の、自分と同じ髪を撫でると、すり寄ってくるように頭を手に擦り付けてきた。んん、という寝言の後、気になったのか眉根を寄せて、まどろみながらも薄く瞼を開く。青い瞳が中空に視線をさ迷わせて、ふとアオトを視界に捉えた。
アオトもまた弟を見つめている。表面がゆらゆら揺れながらもしっかりとこちらを見ている弟の瞳を、兄もまた確かに捉えていた。
やがて弟が髪を撫でる手を自身の手で捕まえると、のそり、と体を起き上がらせて、癖っ毛を揺らせて辺りを見渡した。
「兄さん、なんだい、これは」
「さあ」
「夢でも見てるのかな」
「たぶん」
手を繋いだまま機嫌を悪くしている弟の様は、昔とあんまり変わらないなという印象を兄に抱かせた。
「真っ白……でもない、けど何もない」
「お前しかいない」
「そうだね、兄さんしかいない」
かき混ぜた生クリームのような棒に絡めるわたあめのような、ふわふわとしていて落ち着かない気分にさせるところに、双子の兄弟はまるで取り残されるようにしていた。
「でも幸せだ」
「……」
「そう思わない?」
「……知らない」
ふいっとそっぽを向いても、手はほどかないでそのままだ。ちぐはぐだけれど本心がしっかり見えている。言葉がなくてもわかりあえているような気分になって、兄は弟に取られた手に力を込めた。そうすると弟も同じだけの力で兄の手を握る。
言葉はちぐはぐだけれども、兄がなにかを口にしたら弟もきちんと返すし、触れ合えば拒むことはない。長らく双子は仲違いをしていて、その合間にも悪夢というかたちで互いを夢にみたことはあるのだが、今回はそれとは全く違う。やっぱり僕たちは兄弟なんだと改めて思う。相手が自分と同じ夢を見ているかは知らないけれど、そうであったらいいと思うし、そうでなくても少なくとも互いを夢に見ている。隔たりのない繋がりの、なんていとおしいことだろう。
「ねえ、どうせ夢を見てるんだから、僕は今のうちにやっておきたいことがあるんだ」
「それは僕もいないと駄目なの」
「決まってるだろ」
手は繋いだまま、もう片方の手で弟の肩を抱きすくめて、兄弟はそのまままた地に寝転がった。今度はぴったりくっついたまま、髪の毛が絡んでどちらの前髪かわからなくなるほどだ。
「あついなぁ」
「なら離れたほうが良いんじゃない」
「それは嫌だ」
「変な兄さん」
呆れたような弟の声だったけれども、滲み出る喜色が兄にはしっかり伝わっている。

ああ。これでいい。
兄弟は現実に触れ合ってはいなかった。それぞれ離れた自分の居場所で自らの生を全うすることを決めた二人は、例え二度と会えなくてももう迷わず振り返るつもりもなかったけれど、こうして確かに繋がりを感じているだけで立っていられるだけの力が湧いてくる気さえしている。

「これだけでいいんだ」




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タイトルは水葬さまより。
久々に出来上がった。


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