第十六話

「それがしのしっているもちとはちがう・・・!」

政宗から渡されたくず餅は、風呂上がりの火照った体に涼しさを呼び込むようなものだった。
餅なのにさっぱりとしており、味もしつこくなく非常に食べやすい。
きなこに黒蜜をかけている様が幸村にはなんとも贅沢に見えた。

「戦国時代にはまだ無いだろ?」
「そうでござるな。それがしはあついもちしかしりませぬ。このようにつめたいもちがあろうとは、まっことおどろきでござる!」

爛々と瞳を輝かせ、餅と同じような柔らかい頬を膨らませて味わう姿はいつもの食事より熱心に見えた。
(さっきはガキじゃねぇとかほざいてたが、どう見ても中身も外側と大差無ぇな。)
嬉しそうに食べる幸村を見つめながら、政宗はそう思った。
そして見慣れた窓の外を眺める。
幸村が来てからどれくらい経っただろうか。
日数を数えてみるともうすぐ一月になるが、気持ち的にはもっと長い月日が流れているような気がする。
(コイツが来てから毎日が目まぐるしいからそう思うのか。子育てってこんな感じなのだろうな。)
ふとそんな事を思った。

「まさむねどの。」

あいかわらず機嫌良くくず餅を味わっていた幸村が、いつの間にか隣に来ていた。

「なんだ?」
「あのとおくにみえるまるくてあざやかなひかりをはなっているものは・・・なんでござろうか?」

幸村の指さす方を見ると、建物の間から一際目立つ建造物が見える。

「あれは『観覧車』っつーのだ。」
「かんらんしゃ・・・?それはどういったものでござるか?」
「人が乗るんだよ。それで遠くの景色を楽しむっていうものだ。」
「なんと!あのようなおおきなのりものがあるとは・・・おどろきでござる。」
「乗ってみたいか?」

「え?」

「ここからそう遠くないからな。乗りたいなら今からでもいいぜ。」

それはぜひとも乗ってみたい、と口に出しかけたがすぐに飲み込んだ。
なんとなくこの姿のままでは気後れしてしまう。

「・・・そのおきもちだけでじゅうぶんでござる。」
「なんだ?遠慮してんのか?」
「いえ!そういうわけではござらん!」
「Hummm・・・まぁいいけどよ。」

政宗は最後の一つのくず餅を口中に放り込んだ。
(ちっせぇくせして遠慮しやがって。)
何となく面白くないような気がして、政宗は押し黙った。
すると幸村がおずおずと口を開く。

「・・・まさむねどの・・・。きでんに・・おねがいがありまする・・・。」
「Ah?お願い?」
「はい。」
「なんだ、言ってみろ。」

窓枠に頬杖を突きながら、幸村の方に視線を向ける。
幸村は上目がちにその”お願い”を言った。

「もし・・・それがしのからだがもとにもどるようなことがあれば・・・。ぜひあの”かんらんしゃ”とやらにごいっしょさせていただきたい。」

真摯な態度でそんな事を言うものだから、政宗は思わず小さく吹き出してしまった。

「やっぱり乗りたいんじゃねぇか。つーか、それだといつになるか分かんねぇだろ。」
「・・・それでも、もとのすがたがよいのでござる。」

今度は政宗の目を真っ直ぐ見据え、幸村はそう呟いた。
政宗には幸村の何か決意めいたものを感じたが、今それは聞かないでおこうと思った。

「・・・OK.俺は構わねぇ。」
「かたじけのうござる。」
「早く元に戻るといいな。」
「はい。」

二人は再び遠くの観覧車を見つめた。

政宗は知らない。
明日の三日月の晩に何が起こるのかを―――――――。

[ 16/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -