第十五話

戦国の世で風呂と言えば、一般的には蒸し風呂である。
ただ甲斐では例外で、信玄が掘り当てた温泉がいくつもあった。
幸村も何度か入ったことがある。
その温泉が現代では小さいながらも各家に一つはあるというのが一般的だ、と政宗から聞かされたときは驚いた。
正確には温泉ではないらしいが。
こちらに来てから毎晩入ってきたが、この背丈のためか湯船に浸かったことはなかった。
しかし今日は政宗に支えられながら浸かっている。

(政宗殿の肌が・・・某の背中に・・・!)

風呂に浸かっているから只でさえ体温が上がるのに、久しぶりの感覚に尚更熱くなってしまう。
見てくれは子供だが、心情は17歳の多感な青年なのだ。
意識しまいとすればするほど過剰になってしまう。
やけに縮こまっている幸村を見て、政宗は怪訝そうな顔をした。

「Hey,大丈夫か?」

低い声が風呂場では反響し、幸村の耳に木霊する。
それさえも幸村にとっては刺激的であった。

「だ、だいじござらん!」
「本当か?こっち向いてみろ。」
「ぅあ・・まさむねどの・・・!」

抵抗しようとしたが、あっけなく政宗に振り向かされる。

「アンタ、顔真っ赤じゃねぇか。」

幸村の頬は熟れた林檎のように赤くなっており、それは湯あたりだけではない事を政宗は知るはずもない。
真正面から政宗を見てしまった幸村は、相も変わらぬその只ならぬ色香に瞠目した。
少し茶色がかった髪はしっとり濡れ、つっ、と滴が少し上気した白い肌を伝っていく。
その様に思わず生唾を飲み込む。
尋常ならざる幸村の視線に、政宗は眉根を寄せた。

「これ以上入ってるとのぼせるぞ。もう出ろ。」

そう言うと、軽々と幸村を抱き上げ、洗い場に置いている椅子に乗せた。
元の姿でないことがなぜか無性に悔しくなる。色んな意味で。

「頭洗ってやるから、後ろ向いて目ぇ瞑ってな。」

幸村の心情なんか露知らず、政宗はシャワーを取ってお湯を出し始めた。

(政宗殿は某が大人だということをすっかり忘れておられる・・・。はぁ・・・。)

そんな悲しい気持ちを抱きつつも、言われたとおり政宗に背を向け目を瞑った。
頭にぬるめのお湯を掛けられる。そして花のような良い香りが漂い、政宗の両手が幸村の髪に挿し入れられた。

「・・・!」

ぞわぞわとした感覚が首筋に広がるが、決して嫌な感じではなかった。
政宗は指の腹で幸村の髪を泡立てていく。
次第にそれがなんとも心地よく、熱く滾ってた気持ちも幾分落ち着くようになった。

「どうだ?気持ちいいか?」
「ごくじょうでござるぅ・・。」

溜息を吐きながら蕩けた声で答える幸村に、政宗は満足そうに微笑む。

「よくこうやって弟の頭を洗ったのを思い出す。」
「まさむねどのはおとうとぎみがおられるので?」
「ああ。一人な。」
「そうでござったか。おとうとぎみもさぞびもくしゅうれいでござろうな。」

不意打ちの古風な誉め言葉に政宗は顔を少しだけ赤らめる。

「ぜひ、はいけんしとうござる。」

政宗がそんな状態とは知らずに、幸村は政宗に良く似た弟の姿を想像した。
二人並ぶとそれはそれは人目を惹くのであろう。

「アンタが元の姿に戻ったら、な。」
「まことでござるか?!あっ!いたたた・・」

嬉しさのあまりなのか思わず瞑っていた目を開けてしまったために、泡立った液体が幸村の目に入ってしまった。
それは急激に痛みを増し、みるみる涙が溢れてきた。
幸村は堪らず目を擦ろうと左手を持っていくが、政宗にむんずと掴まれた。

「擦ると余計痛いぞ。ちょっと待ってろ。」

そういうと幸村の頭をシャワーで素早く洗い流した。
幸村は突然の水圧に些か驚いたりはしたが、目が痛くてそれどころではなかった。

「ほら、こっち向け。」

言われるがまま政宗の声がするほうに体を向ける。

「どっちに入った?」
「こちらでござる・・・。」

擦りそうになるのを我慢しながら染みる目を指さす。
すると、政宗は固く絞ったタオルで幸村の目を丁寧に拭った。
涙で霞んでいた視界が段々とはっきりと見えてくる。

「どうだ?まだ痛いか?」
「・・・いえ・・だいぶようござる・・・うっ??!!」

幸村の目を覗き込む政宗を至近距離で捉え、思わず声を出してしまう。
急いで顔を背けようとしたが、顎を掴まれびくともしなかった。
そう。それはまるで・・・・。

(ま、政宗殿の顔がぁぁ!!!このような至近距離で・・・・!!!!)

こんな状況は初めてではないのだが、何分久しぶりなので幸村の中ではすっかり免疫が無くなっていた。
故に初心丸出しの反応になってしまう。
青み掛かった美しい隻眼が、幸村の瞳を食い入るように見つめてくるのは相当応えた。
なのに政宗はさらに追い打ちを掛ける。

「Ah,まだ赤いな・・・。舐めてやろうか?」

驚くべき発言に幸村の大きな瞳は更に開かれ、口を鯉のようにぱくぱくと開閉させた。
その様子に政宗はニンマリと笑みを作り、小さく笑い声を漏らした。

「ククッ。jokeだよ。本気にすんな。」
「んなっ?!か、からかわないでいただきたい!!」
「アンタがあんまりにもpureな反応するからつい。」
「ぴゅ、ぴゅあ?」
「生まれっぱなしって事だよ。You see?」
「まさむねどのはひとがわるうござる!このようなみめではあるが、それがしはとっくにげんぷくをすませておりまするぞ!!」
「そう怒るなよ。あ、そうだ。風呂から上がったらくず餅でも食おうぜ。」
「くずもち・・・?なんでござるかそれは。」

餅という言葉に幸村の眉間に刻まれていた皺が伸びた。

「冷たくて程よくあま〜い餅だ。うまいぞ?」

余程魅力的に聞こえたのか、あれだけ騒いでいたのが急におとなしくなり、唾を飲み込む音が響く。
どうやら幸村は甘いものが好きらしい。

「・・・・それは・・・ぜひ、たべとうござるな・・・。」
「じゃあさっさと体洗って上がろうぜ。」

政宗の提案に幸村はぶんぶんと大きく頷いた。

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