第六話

「天正かるた?」
政宗は元親から渡された札をしげしげと眺めていた。傍らにいる小十郎も覗き込むように見ている。
札には色鮮やかな絵が描かれている。
「ああ。こいつを使って今から賭け事をしようぜ。」
「賭け?・・・Hum・・・いいぜ。面白そうじゃねぇか。」
「政宗様。何やら小十郎には悪い予感が・・・」
「Ah?小十郎、俺が負けると思うのか?」
「いえ・・・ですが・・・。」
「Don't worry.心配するな。この俺が負けるわけねぇ。それでチカ、何を賭けるんだ?」
よしよし、乗ってきたな。
「生憎俺は今何も持っちゃいねぇ。だから俺は・・・命を賭ける。」
思ってもいなかった元親の発言に政宗は少し驚いたが、すぐに瞳を冷たく細めた。
「・・・OK。いい度胸だ。」
「そのかわり、俺の命と不釣り合いかもしれねぇが・・・もし、俺が勝ったら政宗の時間を少しだけでもいいから俺にくれねぇか?」
「俺の時間を?」
「ああ、駄目か?」
もしここで「お前をくれ」と言ったら政宗よりも小十郎に殺されそうなので、ここは敢えて「政宗の時間」を要求してみた。
これならこちらの要求を呑んでくれるはず、だ。
政宗は少し小十郎と目配せを行い、元親の方を向くとニヤリと笑った。
「その賭け乗ったぜ。俺が勝ったらチカの命をもらう。チカが勝ったら俺の時間をやろう。」
「よっしゃ。決まりだな。じゃあさっそくやり方を説明するぞ。あ、本番に龍神の力を使うのは無しな。正々堂々と勝負しようぜ!」
「All right.そんな野暮な事はしねぇ。小十郎、酒と肴を持ってきてくれ。」
「・・・承知いたしました。」
そう言うと小十郎は部屋から出て行った。
小十郎は何か元親が良からぬ事を考えているのを薄々勘づいているようだが、強く止めはしなかった。
所詮元親は人間で、政宗は龍神なのだ。政宗に危険が及ぶ事はないと判断しているのだろう。
しかし、『窮鼠猫を噛む』という。
イカサマはしないが、元親はこの賭け事では今まで負けた事がない。
その運が今日発揮されるかどうか分からないが、なぜか勝つ自信があった。
勝って『政宗の時間』を手に入れる。
必ず。
「・・・そういえば。」
ふいに政宗がカルタを元親に渡しながら言った。
「なんだ?」
「さっき俺が食事をしないのを気にしてたな。」
「あー、なんか俺ばっかり喰ってて、政宗は全然喰わないからちょっと不思議に思っただけだ。それがどうしたんだ?」
不意に政宗の金色の瞳が怪しく光った。
「俺の主な食事は人の寿命だ。一月ぐらい前に喰ったばかりだからな。だから腹が減ってなかったんだ。」
形の良い唇から赤い舌が出て、上唇の端をチロッと舐め上げる。
「チカはどんな味がするんだろうな。」
今恐ろしい事を多分言われていると思うが、元親は官能的な動作をする政宗に見とれていた。
今すぐ押し倒したいのをぐっと我慢する。
政宗は元親の反応を楽しむように白い手を元親の頬に寄せた。
少し熱を持った肌には冷たい手が心地よく感じられた。
「ま、一呑みだから痛くない・・・と思うぜ?」
政宗は心底楽しそうに笑うと元親に「早く説明しろ」と急かした。

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