最終話

日が顔を出す少し前に目が覚める。

いつもは起床後すぐに鍛錬に励む幸村だが、今日はとてもそんな気が起きなかった。
傍らを見ると、ぐっすり眠っている愛しい竜の姿。なんとも無防備である。

布団に散らばる漆黒の髪に触れてみた。その感触は柔らかく絹のようであった。
梳いてはこぼれ、また梳いてはこぼれる。
しばらくそれを繰り返していると、下から手首を掴まれた。

「俺の髪がそんなに好きか?」

先程まで閉じられていた隻眼が開けられ、綺麗な色の瞳が幸村に向けられている。


「これはしたり。起きられてしまいましたか。」
「そんだけ触りゃ誰だって起きるぜ。」


政宗はそう言うと幸村の胸に顔をうずめた。

「政宗殿?!」
「・・・うるせぇな。ちったぁいいだろうが。」

「い、いえ!嫌とか断じてそういう訳ではなく、寧ろそのぎゃく・・・」
「分かった、分かった。」

政宗はそのまま目を瞑り、幸村の腰に手を回した。
幸村も慌てふためく手を止め、そっと政宗を抱く。


「城を抜け出た甲斐があったもんだぜ。」
「・・・なんと。それは奥州の一大事でございますな。また何故抜けてきたので?」
「言わなかったか?」
「・・・・・はて?・・・聞いてはござらんような。」


「アンタに会いにきたんだよ。」


「え・・・・?」


「物見遊山でこんな所まで来たんじゃねぇ。アンタに・・・幸村に会いたくて仕方なかった。」


腰にまわされた腕が少しきつく締めてくる。
幸村からは政宗の表情は見えないが、黒髪からのぞく耳はほんのり赤く染まっていた。
それにつられて幸村の頬も赤く染まる。

(なんともお可愛らしい!某を萌え殺す気でござろうかぁっ?!)

幸村は堪らず政宗の頭をぎゅっと抱いた。
艶やかな髪からは微かに香の香りが漂い、鼻孔をくすぐる。

「そのような事をおっしゃられるな。益々奥州に帰したくなくなりまする。」
「Oh・・・嬉しいこと言ってくれるが、そいつぁ困るな。」

政宗はクスクスと笑いながら顔をすり寄せた。
まるで猫のようだ。それも上等な猫。

「そういやぁ・・・アンタは奥州におっさんの名代として来たんだよな?」
「いかにも。」
「じゃあまだ一緒にいれるよな?今から発てば日が暮れる前には着くだろう。夕餉は俺がもてなすぜ?」
「おお!忝のうござる!」
「そのかわり、小十郎の説教には付き合えよ。You see?」

「うっ・・・・。・・・背に腹は代えられぬ・・・。承知いたした。」
「ククッ。そう心配するな。アンタがいるからそんなに長くならないと思うぜ。」

幸村は小十郎の恐ろしい剣幕を想像し、少し身震いした。
だが愛しい人のためだ。この身はいくらでも差し出そうと心に誓う。

「じゃあ早速wake upだ。darling。」

政宗は上半身を起こし、幸村の額に軽く口付けをした。


その後、幸村の大絶叫で旅籠に泊まっていた客達が一斉に飛び起きたのは言うまでもない。

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