第十話

小十郎は元親を風呂場に押し込めた後、急いで政宗の自室の前に来ていた。
すぅと息を吸い、主に問い掛ける。
「政宗様、少々お話しがございます。入ってもよろしいですか?」
主の事だ。また小言を言われると思い、居留守を使うだろう。
そう小十郎は考えたが、意外にも部屋からは明るい声が聞こえてきた。
「Good timing!入れ!」
そんな政宗の様子を不審に思いながら「失礼いたします」と声を掛け、障子を開けた。
「小十郎!どれがいいか?」
そう声を掛けられ、政宗のほうを見ると、主は紅や碧青、桔梗色などの着物を身にあてていた。
その表情はまるで恋をする生娘のようで、小十郎はぐらっと目眩がした。
「・・・・・政宗様。何をしておいでです・・・?」
「Ah?何って着物を選んでるんじゃねーか。なぁこっちのがいいか?」
楽しそうに着物を選ぶ政宗の姿に一瞬小十郎の顔が綻んだが、すぐにいつもの険しい顔に戻す。
いかんせん小十郎には政宗がはしゃいでる理由が気に食わないのだ。

「政宗様。よもやあの男と一晩共になさるおつもりか?」

回りくどい言い方をせず、直球で聞いてみる。
小十郎の言葉に政宗は固まる。
「やはり・・・。何を考えておいでですか。龍神ともあろうお方が人間と睦み合」「STOP!小十郎、お前も分かってるだろ?」
政宗は着物の山の中に胡座をかき、頬杖をついた。
「あいつは生命力に溢れている。それを少しもらうだけだ。それに・・・何だか俺の好きな匂いがするんだよ。」
「匂い・・・ですか。」
「ああ、俺の結界を抜けてきたのもそのせいだろう。稀な人間だぜ。」
小十郎には神の結界の原理は分からないが、政宗がそう言うのだからそうなのだろう。
少々納得がいかないが、主が食事を所望なのだから仕方ない。
小十郎はこれ以上反論するのをやめた。
「政宗様にはやはりこの碧青がお似合いでございますよ。」
そう言うと着物を政宗の肩に合わせた。
「しかし、このようにめかし込む必要がおありでしょうか?」
「・・・お前は美意識ってものが無ぇのか。」
政宗は溜息をついて帯紐を解き、着ている着物を脱いだ。
小十郎はそっと視線をはずす。
無駄のない均整の取れた肉体と雪のように白い肌が小十郎には眩しかった。
いつも身の回りの世話をしており、幾度なくみている光景だが、いつまで経っても慣れそうもない。
少し顔を背け、政宗に着物を着せた。
姿見を見ている政宗は満足そうに目を細めている。
「そろそろ長曾我部が上がる頃合いですので迎えにいって参ります。」
そう言い、下がろうとすると「小十郎」と呼び止められた。
「Thanks.」
「いえ・・・では失礼いたします。」
小十郎は膝をついて一礼をし、障子を閉めた。



龍神の湯(勝手に元親が命名した)は非常に心地よかった。
小十郎にやられた傷も癒えたような気がする。
もう少し浸かっていたかったが、政宗を待たせると拗ねそうなので上がることにした。
体を拭き、渡された着流しに袖を通す。上等な布らしく着心地が良い。
言われた通り戸を開けながら小十郎を呼ぶ。
「うぉーい!片倉さ、うおっ!」
目の前に小十郎が正座して待っているとは思わず、またまた変な声を上げてしまった。
「・・・あんた、絶対わざとやっているだろ・・・。」
元親はわなわなと拳を握りながら小十郎を睨む。
「何のことか分からん。政宗様がお待ちだ。付いて来い。」
小十郎は素っ気なくそう言うと、足早に歩いて行く。
元親はドタドタと忙しなく小十郎に付いて行った。


[ 98/115 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -