幸せへの壁 後編




さぁさぁ!後編ですよ
張り切ってどうぞっq(^-^q)

―「おい。郁!」
呼び止めても郁は止まらずに、涙を流しながら走り去っていく。追いかけようとすると、左手を強く握られ、耳元でささやかれた。
「だから、言ったでしょ。でないと笠原さんを巻き込むわよ。」―
ついさっきの出来事を思い出すと悔しくなる。すでに拳を握りすぎて爪の跡がついてしまっている。左手の薬指にはまっている指輪を顔の上へかざすと、堂上の気持ちとは裏腹に蛍光灯の光を反射して輝く。
「入るよ。」
しばらくそうしていると、小牧がビールを持ってやってきた。いつもなら、行ってから開けろと小言を言うところだが、その元気はない。
「なんだ。」
「なんだ、って。俺、あの時堂上の隣に居たんだけど。」
「ああ。知ってる。」
「笠原さん、ベッドから出てこないらしいよ。どうするの?」
「どうにかする。」
「ま、頑張ってよ。また、四か月の冷戦の再来は嫌だよ。俺も手塚もやりにくいんだから。」
「ああ。」
「じゃあ、俺は。」
そして、出て行った。何をしに来たんだか。しかし、小牧の言うことは正しい。すべて俺が悪いことは分かっている。あの女に監視されている中で何をするか。
とりあえず、電話をしてみる。だが、何度かけても“電源が入っていないか、電波の届かない……”とお決まりのアナウンスが流れる。一応メールもしてみるが見ていないだろう。できるだけの最善は尽くしたので寝ようと電気を消すが、結局一睡もできなかった。


今日は待ちに待った公休日!…のはずだった。しかし昨日の事件のショックにより、熱がでてしまった。たまたま、柴崎が公休で、食堂から定食の持ち出しをしてもらった。
「まさか、ショックで熱がでるような乙女がいるとはね。」
「…。」
そりゃ、そうでしょうよ。あたしだって実在するなんて思わなかったわよ。
「んで、このままでいいの?」
このままでいいとは思わないけど、自分からアクションを起こすに起こせない。
「今なら、無料でこの麻子様が相談にのってあげるわよ。」
「え‥いいよ。」
「言・い・な・さ・い・よ!」
強引だが、どうすればいいのか分からないので、とりあえず相談に乗ってもらう。
「別れた方がいいのかな?」
「まあ、全面的に教官が悪いから、あんたの好きにしていいとは思うわよ。」
「でも、別れたくないんだよね…」
「なら別れなきゃいいじゃない。」
「でも、あたしなんて、嫌いだよね。」
「そんなことないと思うわよ。別れるか別れないかは自分で考えなさい。」
結局、教えてくれなかったじゃん。熱もあるので寝ようとベッドに入ると、すぐ眠れた。
一晩寝て熱もひき、今日は内勤の日。午前中は挨拶と業務連絡以外会話をせずに、乗り切った。昼休憩に入って、堂上と一緒にいたくなくて、柴崎を誘いに行くと、ある女性に話しかけられた。



結局昨日は電話もメールも繋がらず、公休日は携帯を気にしながら、本を読んで潰した。昼休憩に入り、ようやく郁と話せると思って事務所に戻ると、すでに郁はいなくなっていた。
昼休憩の後半、思ったより早く帰ってきた郁が話しかけてきた。
「堂上教官。夜、いつものところへ来てください。」
「分かった。」
「なあ、かさ…」
郁に話しかけようとすると、バーンといつも通り、隊長室の扉があいた。
「隊長!!扉が壊れます。」
いつも通りつっこむ。しかし、このおっさんに効き目はない。だが最後の抵抗だ。
「気にするな!!それより、今日は特殊部隊飲み会だ!!」
いつも通りの急な予定…。ただし今日は、郁としっかり話さなくてはならない。「今日は郁と会うので遅れます。」と玄田に伝えると、現状を知っているのかは知らないが、あっさり「なら仕方ない。終わったら来い。」とらしくなく答えた。
そして、夜。仕事を終え官舎裏に行くとすでに郁は来ていた。長い沈黙の後、郁が口を開いた。
「篤さん。わたしと別れてください。」
指輪を一緒に差出す。この状況になることをどれだけ恐れたことか。ただし、それが今成立してしまっている。もう、怖さ以外なにも感じない。郁がいなくなってしまったら、確実に俺は壊れる。空っぽになる。
「何故だ?」
理由は分かる。でも聞かずにはいられなかった。
「だって、あの人とお似合いだったじゃん。」
それだけ言って郁は走り去ってしまった。呼び止めるが振り返らない。

そこで、ドスの効いた声が響いた。
「ちょっと待った!」
悪名(?)名高い(予算を考えない)特殊部隊隊長の声だ。郁の先には、肩を組み合い、壁となった、隊員の半数がいた。その奥から、柴崎と小牧が出る。
「別れる必要はないわ。出てきてください。」
すると、建物の陰から人影が出てきて、走り去ろうとした。
「城本一正。逃げようと思っても無駄です。あなたはすでに包囲されてますから。」
きっと角の向こう側にも壁が出来ているのだろう。それにしても、冷ややかな柴崎の顔が怖い。
「堂上教官。笠原が別れを切り出した理由はこれです。」
柴崎はUSBレコーダーを取り出した。再生ボタンを押すと、郁と城本のこえが聞こえてきた。
“「あなたも昨日見たでしょ。私たち付き合ってるの。だから、別れて。」
「嫌です。篤さんはそんな人じゃありません。」
「なら、好きな女の前で他のおんなと手、繋ぐ?それに走って行ったあなたのことを彼は追いかけなかったのよ。つまり、堂上君はあなたなんか好きじゃなかったのよ。」
「言われてみればそうですね。分かりました。」”
聞き終えた瞬間、プツっと堂上の中で何かが盛大に切れ、体全体から頭に血が集まってきた。堂上の暴走を止めようと4人がかりで押さえつける。
「キ、貴様!!俺の郁によくもっ」
騒ぐ堂上を傍目に、柴崎と小牧が城本の前に立った。
「城本一正…」
「図書隊員をこのまま続けられると思わないでいただきたい。」
柴崎、小牧が一言ずつ話すたびに冷気が増す。極めつけは…
「「私たちが責任を持って、上にあげますから。」」
2人の同時攻撃だ。すでに、城本の顔は血の気を失せている。
翌日は玄田権限により、公休という名の有給になった。飲み会は免除され、郁を連れて近くのホテルに入った。
「あたし、篤さんと別れなくていいんだね。」
「別れるなんてゴメンだ。死ぬかと思った。」
この時彼らは、自分達が逢引した場所が完全予約制の人気スポットになることをまだ知らない。



おまけ1
 公休(有休?)の次の日、事務所の前で堂上と会った。
「おはようございます。」
「ああ。おはよう。」
2人で入ると、また横断幕が張ってあった。
“復縁おめでとう!堂上 篤&笠原 郁”
「「別れてません。」」
2人で同じつっこみを入れ、事務所は大爆笑だ。今回も堂上がひっぺがすと思ったのか、緒方が一枚目をめくると
“お幸せに”の文字が出てきた。きっと、一昨日にでも作ったのだろう。
それより、なんで模造紙なの?

おまけ2
特殊部隊飲み会にて。
「おい、お前!白い布ないか?」
「ねえよ。」
「シーツとか。」
「いや、あいつらに失礼だろ。」
「誰か持ってないか、白い布。」
「どうすんだよ。横断幕。」
「買いにいくの面倒だし。家にある、模造紙使うか?」
「いいなそれで。」
こんな流れで模造紙になりました



prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -