一人の死


「やだっ・・・やだジョット・・・行かないでぇ!!




泣いても泣いてもジョットは笑うばかり。

どれだけ涙が降り注いでも薄まることのない血。

胸に咲いた真っ赤な薔薇が、私が彼を殺したことを証明していた。




「あのな、咲希。お願いが、あるんだ・・・」

「え・・・?」




掠れて、聞こえづらくなった声を何とか聞き取ろうとジョットの口に耳を寄せる。

ジョットの最後の願いに私は必死に頷いた。

徐々に黒くなっていく血に恐怖を抱きながらも。怖くなってその血から目をそらしながらも。

必死に、頷いた。




「咲希・・・キス、してくれるか・・・?」




うん、うん・・・何度も頷いて、私はキスをした。

一瞬一秒でも長く、つながっていたい。

でも・・・唇から伝わる、だんだんと冷たくなっていく温度を認めたくなくて離れてしまいそうになった。


ふわり


気持ち悪い血の匂いは消え、薔薇の香りが漂う。

綺麗な真っ赤な薔薇の花びらが風と踊り、次第に深紅、そして・・・黒い花びらになり砕けた。

ガラスが砕けるより細かい粒子になり、風に飛ばされ・・・消えていく。




――さようなら 愛しています。






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