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「・・・・・・・」

「可愛い可愛いー!!これとあれとこれここれ!!」

ア「それから、パーティー用のドレスも。」

「りょーかい!」



目の前に次々と詰まれて行く服に、リルは唖然。

これほどの量を買う必要は絶対ない、とリルは確信していた。

確実に、サキがリルに似合いそうなもの、着せたいものをチョイスして好きなだけ買っているのだ。

アラウディは、服さえ買えればいいようで特に注意もしない。

お金の心配はない、なんていっているけどそんな問題ではないだろう・・・。



「あの・・・そんなにいらないですよ、サキさん。」

「あら、遠慮入らないわ。それから敬語とってもいいわよ?いいづらいでしょ?」

「まぁ・・・。じゃぁ、サキ。そんなに必要?要らないよね、確実に。」

そんなことないわ!



眉をひそめ、リルに詰め寄り睨みつけるサキにリルは数歩後ろに下がってしまった。

そんなこと気にすることもなく、リルに言い聞かせるような口調でサキが言う。



「服っていうのは大事よ?第一印象を決めるものだし、可愛くも綺麗にも大人っぽくも見せられる。お化粧も大事だけど、服とマッチしてなきゃ意味がないでしょう?」

「で、でもそんなにきないし・・・」

「着るかも知れないでしょ!?買ってくれるって言うんだから素直にもらっておきなさい!気分によっては着たい服とかもあるの!」

「じゃぁ黒い服かって・・・」

「もちろん買うけど・・・そればっかり着るのはダメよ?時々可愛い服を着てドキッとさせなきゃ!男はそう言うのに弱いんだから!」

「別にそんなのどうでもいいじゃない。」

「・ ・ ・ ・えぇー!?



猫ッ被ってたことなど忘れ、サキは大声で叫びだした。

周りの人間が、何事かと訝しげに見ているがそんなのお構いなしだ。

逆にアラウディが、なに見てるの?といいたげに睨み付けている。



「嘘・・・ジョット様と恋人同士なんでしょ?可愛い姿見せたいとか思わない?」

「え?そんなわけないでしょ。」

「嘘嘘!!ジョット様がわざわざつれてくるなんて十中八九そうに決まってるじゃない!ちゃんと誘惑して恋人になってよ!」

「え、なんで言われなきゃいけないの・・・。」

「えぇー。つまんない・・・」

ア「ねぇ、それ妻の発言としてどうなの?

「別にぃ〜。表向きでしょ。ジョット様が誰とセックスしようが気にしないわよ。」



その発言にリルやアラウディではなく、周りにいた人間は一番ドキッとしていた。

聞かないようにしていても、聞かせたくないという声のサイズで話していないサキの声は聞こえるわけで・・。



「っと、こんなものかしら?じゃぁ、アラウディ。買ってきて。ぁ、まって。この服可愛い。」

「え゛。そんな服着ない。」

「じゃぁ、私が〜♪どうどう?似合う?」

ア「君の服を買うお金なんて持って着てないよ。」

「なっ煤@自分で服を買うお金くらいありますー!似合うかどうか聞いてるの!」

ア「・・・・別に。」



服を体に当て聞いてくるサキに素っ気無く返し目線を逸らす。

サキはつまらなそうに口を尖らせていた。

そこで、ふとリルは聞いてみる。



「サキとアラウディって付き合ってるの?」

ア「・・・・・・殺す?

「なによそれ・・・」

「付き合ってないよ〜。私はジョット様の妻だから☆」

「ふぅん。」

ア「次そんなこといてみなよ。ぐちゃぐちゃにしてあげる。」

「あら、卑猥。」

ア「死ねば?

「きゃー。アラウディが苛める〜!死なばなんて死ねばなんて・・・殺すわよ?

「・・・・・仲いいんですね〜。」

「うん。超仲良し!」

ア「どこが。」



明らかに嫌そうにアラウディは顔を歪めた。

けれど、やはりリルにはどこか仲良さげに見えるのだ。

アラウディがテレなのではなく本気でサキを嫌がっているのは確かなのだけれど・・・。



「ま、会計しましょ。私は服あるし。アラウディのも見立ててあげようか?」

ア「要らない。」

「じゃぁ、買ってくるからちょっと待っててね。ほら、行きましょう?」

ア「・・・なんで僕が。」

荷物持ち。



まともな理由(?)を出され、渋々アラウディはリルについていった。

リルはといえば、特に何をするわけでもなくボーッと店内を見回している。

服を買いにくると言う行為は久しぶりのものだが、特に感じるものはなかった。



「お久しぶりです、リル様。」

「ビクッ)え・・・あ・・・」

「ここ数年いらっしゃっていなかったので心配いたしました。今回はもうお買い物はお済みなのですか?」

「え・・えぇ。」

「それはようございました。久しぶりに"クロード"様との訪問なのですね。」



にこりと嬉しそうに微笑む青年の言葉にザワリと心が波立つのを感じた。

ドクドクドク 普通に波打っていた心臓が、異常なほど速さをます。

ふと、青年から視線を逸らしたその先に・・・男がいた。


ガタッ



「っ、失礼します。」

「は、はい。ご来店ありがとうございました。」



男はキョトンと不思議そうな目をしているが、マニュアルどおりの挨拶をする。

リルはそんな言葉を聞かずして、急いで店から飛び出した。

一刻も早く、あの店から遠ざかりたかった。


忘れたい忘れたい
消えたい消えたい
死にたい・・・



色々な感情が膨れ上がり、一気に爆発する。

それに耐えられなくて、リルは思わずしゃがみこんだ。

急にしゃがみこんだせいか、くらくらして呼吸が乱れる。

・・・呼吸の乱れは、誰のせいか・・・。



「やっ・・・なんで・・・」



忘れたくて、がむしゃらにまた走った。

何かを考える余裕なんてなくなるほど早く。

それなのに、思い出すことを止めてはくれない。

より一層、鮮明な映像が流れ出す。


媚を売るぐらいなら消えろ。お前には飽いた。



「言わないでっ・・・・・」



お前は誰からも必要とされ〜〜〜〜〜



いやぁぁああああああ!!



頭で反響する声を聞きたくなくて、声を張り上げた。

耳を塞いだ。

その瞬間


ドンッ


体が前から押された。

支えきれなくなり、後ろにのけぞっていく。そして、倒れる

そう思ったが、腕を掴まれていた。



ジ「リル・・・・・・?」

「ジョット・・・・?」

ジ「どうしたんだ?叫んでただろ・・・。悲鳴が聞こえたぞ。」

「別・・・にっ・・・」



早まる動機を抑え、リルは言葉を紡ぎだした。

声が震えそうになって、泣いてしまいそうで・・・思わず目線を逸らす。

そのとき


ふわっ



「・・・・・・?」

ジ「なにかあったのか?」



体を包まれた。

温かい・・・なにかに。

そのまま優しく頭を撫でられそこでジョットに抱きしめられているのだと気付く。

声が、遠くなっていった。



「・・・別に。」

ジ「嘘が下手だな。というか、あんなに悲鳴をあげてなにもないはずがないだろう。サキとアラウディはどうした?」

「・・・・・ぁ、」

ジ「迷子か?」

「違っ・・・まだ、店にいると思うけど・・・。ここがどこだか分からない。」

ジ「やっぱり迷子だな。」



ククッと笑うジョットに、リルは顔が熱くなって行くのを感じた。

恥ずかしい。

今の顔を見られたくなくて、ジョットの胸に顔をうずめる。



ジ「そうしていると年相応に見えるな。」

「煩い・・・。」

ジ「言いたくないならいいが溜め込むと爆発するぞ?」

「・・・聞かないの。」

ジ「お前は相談しなくても、自分で解決できそうだからな。言いたくなったら言え。いつでも聞くぞ。」



ジョットは、自分を掴む力が強くなったのを感じた。

リルの震えが止まるように体を抱きしめるが、震えは止まらない。

心臓も・・・早く波打っていた。

泣いてしまえば楽だろうに、リルはそれをしなかった。

子供ならばもっと弱くてもいいはずなのだが・・・



ジ(環境が・・・それを許さなかったんだろうな。)



弱さを見せることを知らずに強がっている少女がいじらしくて

ただ、何故だか寂しくもあって・・・

ジョットは自嘲する。



ジ「行くか?あいつらも心配して探してるだろう。特にサキがな。」



苦笑しながら言うと、リルは無言のまま首を横に振った。

それにジョットは少なからず驚く。



ジ「・・・いきたくないのか?」

「・・・・あの店は、嫌。」

ジ「・・・そうか。だったら俺が・・・」



不意にリルは顔をあげた。

まるで "行かないで" とでも言うように。

ジョットは無性に何があったか聞きたくなったがグッとこらえ・・・



ジ「分かった。もう少しここにいる。」

「ごめんなさい・・・・」

ジ「別にいいさ。」



またそっと頭を撫でた。

壊れ物を扱うように そっと


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