凡人 | ナノ
異才



結果、こうなりました。




「………」
「いつまでもそんなに機嫌悪そうな顔しないでくれる?」




臨也の好意(というか突発的な判断)に身をゆだねてしまい、なぜかしばらくこの男のもとで生活をすることになってしまった明利。
まさかあの場面で自分がなんのためらいもなく同居を承諾することになるなんて思ってもみなかった。
そんな自分に明利は嫌悪感をいだき、表情を引きつらせながらその場にたたずんでいた。




「だって…おかしいと思いません!?」




明利は知らなかった。
ここにいる折原臨也がどんな男なのかを。
無論、面識はあるため顔と名前は覚えている。
そして以前、友人から聞いたこの男の本職と思われる“情報屋”というものについても多少、記憶にある。

明利はまだこの外の世界に足を踏み入れだしてから間もない。
だから情報屋などという職種は聞いたこともなかった。

ゆえにわからないのだ。
この男がどれほど凶悪な人間なのかを。




「なんで?俺はよかれと思って君を家に泊めてあげようとしてるんだよ?」




あくまで善意ゆえの行動だと主張をする臨也。
明利もそれ以上、問い詰めることが面倒になったためここは臨也の言う通り“彼からの好意”として受け取ることにした。




「もういいですよ。それより…早く仕事の内容でも言ってくれませんか?」
「――は?」




あからさまに不機嫌そうな表情で臨也を横目に見ながら明利は臨也が予想にもしなかった言葉を吐き出したのだ。

臨也が明利の発言に驚いたのは唐突に吐き出されたそればかりが理由ではない。

自分がこれから彼女に言おうとしていたことを言い当てられてしまったからだ。




「どうせ、あなたはタダで人を家に泊めるような善人じゃないでしょう?」
「出会って間もない人間をそう決めつけるのはどうかと思うよ」
「いいじゃないですか。大方、当たってるんだから」




はじめから分かっていたかのような口振りの明利に臨也はどことなく不信感を覚える。

彼女はあくまでどこにでもいるようなごく普通の少女。
これといってすぐれた点のない、人間の中でも最も人間らしい存在だ。

彼女に眠る力は“予知能力”という一種の超能力かと考えてみる。
だが、それはあり得ないとすぐに判断ができた。

もし予知能力があるとなればきっと“情報屋”だと名乗るだけの自分にケーキごときでやすやすとつられるはずがない、と。




「じゃあ…買い出しでもたのもうかな…」




波江に任せようと思っていた買い物リストを明利に手渡す。
明利は無表情のままそれを受け取ると、バッグを引っさげ臨也の家を出た。

明利が家から出たのを確認すると臨也はキッチンへと向かう。




「なんだ…思ったよりずっとおもしろいじゃないか…」




もとは全くといっていいほど興味を感じられない部類の少女だった。
いや、興味のなさゆえに深入りをしなかったのだが……。

もしかしたら、彼女は自分が思うよりずっとすごい人間なのかもしれない。
そう思いはじめた。


――ああ、いい意味で期待を裏切ってくれるじゃないか。
これだから俺は人間が大好きなんだ。


人、ラブ!
俺は人間が好きだ、愛してる!






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