猿の華麗なる転身

蝮に蛇を戻させ父親で有りながら上司に値する蟒さんの元へと背中を押して遣ると、私を物足りなさそうに見遣った後にきつく恨めしげに柔造を睨み付けてから縁側を小走りで走り抜けて行った。
そうして蛇と申の邂逅が終わり、漸く平穏が戻ったとばかりに一時騒然としつつも被害を被らない様に避難態勢を取っていた辺り一体は普段と変わらない動きを再開し始める。
此処の皆も毎日繰り替えされる喧騒には慣れた物で、此の自体をどう切り抜ければ良いかを理解しているくらいだ。


「今日は何も壊さんで終わったか…」

「猫乃!」


腕を組んでぼんやりと縁側付近の被害を確認する様に眺めて居ると、庭から柔造が手にしていた錫杖を杖にして「よっこら、」とオッサン臭い掛け声と共に縁側に攀じ登って来た。
これが八百造さんなら納得出来るのだが、まだ二十を過ぎた程度の柔造が遣ると唯のネタだ。


「…未だ居ったんか柔造」

「俺が居ったらあかんのか」

「いや、別にそんな事はあらへんけども…ちょお、膝に着いた土払ってから上がり」

「おー」


ぱんぱんと膝の辺りを払う柔造の後頭部を眺めながら、私はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
先程蝮に向けていた敵意丸出しの表情とは違い、普段周りに振り撒いている柔らかく穏和な顔。
蝮にもそう言う優しい顔をしてやれば良い物を、何処をどうすればあんなに犬猿と化せるのか。


「…蝮の何処がそないに気に入らんのか…」

「全部」


…聞こえてはったらしい。
せやかて、全部は無いやろ。

現の志摩家頭首と宝生家頭首はお互いを尊重し合う、組ませれば最高のコンビと名高いと言われているのに、其の息子娘達は一体どうなっているのだろう。
いや、コンビを組ませれば其処ら辺の祓魔師のチームよりも断然に強く、完璧なコンビネーションを見せる癖に、日常生活に戻った途端にああ成るのだ。


「…はあーあ…」

「溜め息は幸せ逃げまっせ」

「御前さん等の所為やボケ!」

「あっで!」


此処数年で私よりも随分と高く成ってしまった柔造の横っ面を軽く握った拳で押し遣ってから身の仕事場へと戻るべく縁側を歩き始めると、その後ろを柔造が小走りでついて来る。
此の癖はどれだけ図体がでかくなろうが小学生の頃から変わらない。


「あの頃の柔造はえらい可愛いかった…こーんなにちいこい生き物やったのに」

「今も可愛いもんやろー?」

「あっは、てんご言わはったら、あきまへんえー」

「酷っ」


けらけらと、笑い声を立てながら歩く私の後ろに、柔造。
昔から変わらない光景の筈なのに、今では少々の違和感を伴う光景で。


「縮め、柔造」

「嫌やわ絶対」


それでも何と無く、私はこの光景は心地好さを感じる様な気がして仕方が無いらしく、首に腕を回してフロントチョークを掛けに掛かると、必死に抵抗する柔造がやっぱり子供に見えた。




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