プロローグ

両親二人が他界したのは十四も離れた弟の子猫丸が産まれてすぐの事だったと、当時中学二年だった私は記憶している。
父は青の夜に青くて綺麗な火を吹き出しながら、母は父を亡くしたショックで気を病んで追う様に首を自ら切り落として。
二人共余り良い旅立ちの方法では無かったから、棺の中の遺体は実子である私や子猫丸に見せる事はせずに焼いてしまったらしい。
骨を拾う箸は辛うじて握らせて貰ったけれど、各部が青の熱に焦がされた骨や首と胴体が一致していない骨を拾うのは如何にも、未だ十四そこそこの私にはキツかった様だ。
亡くなったと聞いた時も葬式の時も泣かなかった癖に、骨を見た時にとうとう涙腺が決壊した。

───漸く、私はそこで事態を理解したのだ。
両親にはもう二度と会えないのだと。

父様(ててさま)、母様(かかさま)と叫びながら泣き喚く私の背中で、おんぶ紐に括られていた子猫丸まで泣き出す始末。
今まで平然としていた"無情な子供"がまさか泣き出すとは思わなかったらしい周りの大人達が慌てふためく中、私を直ぐさま抱き締めてくれたのは明王陀羅尼宗の座主である和尚の達磨様だった。


「凄いなぁ、猫乃は凄い子や。きちんと父様や母様の死を受け入れたんやもんなぁ。大丈夫や、此れからは猫乃も子猫も明陀の子。皆が付いとるさかいに、一杯泣いて、一杯笑い。な?」


暖かい雫が次々と私の目尻から溢れて落ちていくのを達磨様は高い筈の着物の袖で拭ってくれて、わんわんと泣きじゃくる子猫丸ごと優しく優しく抱き締めてくれた。
其れに甘えて縋り付いて、泣き疲れて意識を手放すまでずっと達磨様に抱き着いていた事は今でも時折達磨様が話題に出す物だから、赤面しながら頭を慌てて下げるのだけど。


そうして月日は流れ、まだ赤ちゃんだった子猫丸も明陀の皆に愛情を注がれながらすくすくと健やかに育ち、今はもう中学一年生として地元の中学へと入学を決めた。
中学二年だった私も、今は二十六歳といつの間にか成人式所か二十代半場を終えた身となり今は正十字騎士團の京都出張所に勤務する上二級仏教系祓魔師(資格は詠唱騎士だ)として、明陀宗に貢献を果たしている。
三輪家は志摩や宝生と共に代々明陀に、祓魔を行う僧として身を置く家の一つ。
けれど、どう足掻いても私は女でしかなく、長男である弟の子猫丸が家を継ぐ事は必然で。
でも十四も歳が離れた子猫丸にはまだ家督を継ぐには幼な過ぎるから、今は私が頭首の代理として総会等に出席しているのが現状。
子猫丸が、…長男がそこそこ自立を始める高校生になるまでは、私が三輪家を守らなければ。
唯一の肉親である子猫丸を守るのもある意味私の使命なのだから。
私の膝を枕にして惰眠を貪る弟の丸刈り頭を撫でながら、何度も何度も繰り返してきた言葉を唱える。


「三輪家の頭首の為にあれ。私は、…明陀の子や」


三輪家長女はただの肩書き、私は三輪家長男の為の布石になるだけ。
それが自分の人生を掛けた私の目的であり、人生を掛けた夢だと。
坊と廉造の三人で走り回る子猫丸を見ながら決意したのは十年も前の事だった。




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