賭の代償

2



* * *



「このコインの表が出たら私達に手を貸してもらう。裏が出たらあなたの女になるわ」



 飛空艇内の広い賭博部屋で。


 オペラ座でマリアに扮した身代わりのセリスにまんまと騙されて、目の前で憤慨している世界で1艇しかない飛空艇を有するギャンブラー、セッツァーにセリスは一つの賭を持ち出した。
 手の中には運命を左右するコインが一枚握られている。




 飛空艇を手に入れられるか。

 それとも賭博師の女になるか。




 そのまだ見えぬ二つの運命をその手の中に篭めて、握った拳をセッツァーに向けたセリスは唇の端を上げてにやりと笑った。



「なっ…!何言ってんだ!そんな事…――――!」



 背後で叫ぶロックの抗議を無視して、セリスは驚いて返事を返してこないセッツァーに再度挑発する。



「どうするの?世界一のギャンブラーなのに、勝負もしないうちから逃げるつもり?」


 
 発破をかけられ、セッツァーは小さく舌打ちすると「…判った。勝負しよう」と呟いた。
 そうこなくっちゃ、とセリスは微笑み、手の中のコインを取り出す。



「じゃあ、いくわよ」



 そう告げて、セリスは親指でコインを弾いた。


 勢いよく高く跳ね上がったコイン。
 クルクルと宙を回る二つの運命。
 それを固唾を飲んで見守る5人。



 けれど…
 その中で、この勝負の行方を既に知っている者がいた。
 その昔、同じようにそのコインに未来の選択権を賭けたフィガロの兄弟と、その話をつい最近聞き知ったこの賭の仕掛人のセリス。




 実はこのコインが示す答えは一つしかない。




 それを知っている3人は、自然と顔を見合わせ笑みを浮かべた。
 そして落ちてくるコインが失速して動きを止めるのを余裕の表情で眺めている。






 コトン…






 床の上に制止したコインが示すものは――――表。







「私の勝ちね。約束通り、私達に手を貸してもらうわよ」



 勝ったからといって無邪気に喜ぶでもなく、まるで勝ちを初めから知っていたような、余裕の笑みでそう告げるセリス。
 それに訝しみながら、セッツァーは足元に落ちたコインを拾いあげる。
 手にしたそれの裏表を見て、彼は目を細めた。



「両表のコインか…」



 表の絵柄のみが描かれたコイン。
 世に珍しい希少なそのコインは、投げる前からこの勝負の結果が決まっていた事を示していた。



「イカサマもギャンブルのうちでしょ?ギャンブラーさん」



 悪びれもなくニッコリ微笑むセリスに、片やコインを見つめたまま項垂れて物言わず顔を上げないセッツァー。
 そのうちにセッツァーの肩が震えだし、とうとう本気で怒らせてしまったのではないかという空気が漂った瞬間、




*prev next#
back

- ナノ -