賭の代償

1



 広々とした空間に、シャンデリアの派手めの光が降り注ぐ賭博ルーム。



 そこかしこに置かれたきらびやかな調度品。



 スロットにダーツ。



 ブラックジャック台にルーレット。



 雑多な物が入り混じっていて悪趣味な筈なのに、
 ある意味妙に調和の取れた飛空艇のある一室で。



 私は今、








 ロックに追い込まれている。
 






『賭の代償』








「あ、あの…ロック…?」



 壁際に追い込むロック。
 逃げ場を失ったセリス。



 広々とした空間の中で、二人の姿は何故か部屋の隅にあった。


 セリスの背には冷たく固い壁。
 背中越しに伝わってくるひんやりとした壁の感触を感じつつ、目の前の、いつもとは明らかに様子が違うロックにセリスは戸惑う。

 まるで逃げ場を封じるが如く、セリスを覆うように壁に手を付いているロックの両腕。

 その腕が曲がれば顔が触れ合ってしまうんじゃないか思う程、二人の間の距離はありえない程に近い。

 ロックの突然の不可解な行動に驚き、セリスは困惑しながら彼の胸を躊躇いがちに押しやった。
 けれど抵抗は瞬く間に封じ込められる。

 ロックは無言で自分を押しやるセリスの右手首を荒っぽい動作で掴んで壁に押し付けた。



「痛っ…」



 そう小さく叫んでみても、全く意に介さず冷やかな目でセリスを見下ろすだけで。
 いつもの穏やかなロックからは考えられない、


 冷たい視線。
 粗雑な仕草。


 刺すような視線で黙視してくる瞳。
 そして手首を掴むその腕の力は容赦がなく、それはセリスが抵抗して身じろいでも少しも緩まる事もなく、全く動じない。


 にわかに増す恐怖心。


 彼から醸し出される空気は、ピンと張り詰めた糸のように少しでも触ればたちまち切れてしまいそうな程で。


 …明らかに怒っている。


 いや、怒っているというよりもむしろ苛立ちのような。
 何かに耐えているような。
 何とも形容し難い色をその瞳に宿して、目の前で烈火の如く熱く揺れていた。





 その瞳の奥に燻る怒りの原因…
 それはきっと尤もな理由で、本当はセリスにも判っている。


 けれどそこまで怒るような事だろうか…と少し頭を捻ってしまう。










 ―――事の成り行きは数分前に遡る。




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