Prisoner of love

2


 不意に見せられた彼女の涙に、意図せず鼓動が高鳴っていく。
 それでもセリスの表情に目を奪われて何も言えず呆然としていると、セリスはようやく自分の涙に気づいたのか、



「……っ…」



顔を背けて涙を拭うと同時に、掴んだ俺の手を振り解いて踵を返し、



「…もういい。勝手に言ってればいいわ…」



 俺に背を向けて足を踏み出す。
 けれど俺はそうはさせず、再び背後から右腕を掴んだ。



「…っ…!離してよ…!」



 振り払おうともがくその腕を強く握ったまま、俺はセリスを引き寄せ腕に抱き込む。



「………?!」

「反則だ、そんな顔」

「え…?」

「…いや、そうさせたのは俺か…」



 表情は見えないけれど、戸惑いは腕の中から伝わってくる。
 俺の行動と言葉の意味が判らず困惑してるんだろうな。

 でも、俺にだって判らないんだ。

 涙ひとつで意固地だった心はあっけなく陥落して、そこから生まれたのは…苛立ちを一瞬で吹き飛ばす程の愛しさだったから。



「…ごめんセリス、俺が悪かった」



 だからホラ、こんなにも素直に謝れる。



「ほ、ホントに悪いと思ってるの…?」



 あまりにも急に態度を変えた俺を少し訝しみながら、腕の中のセリスは伺うように訊いてきた。



「ああ、ゴメン」

「ホントに…?」



 疑って尚も問うセリスを半ば強引に自分の方へ向き直らせ、俺はセリスの唇に軽くキスをした。



「……!」

「これで仲直り、な?」



 驚きに涙も引っ込んで、突然のキスにセリスの頬はみるみる真っ赤に染まっていく。が、



「そ…、そんな事で騙されないんだから…っ!」



 恥じらう顔を見せないように大袈裟に背けて、尚も強気で言い放つセリスが愛しすぎて、思わず吹き出して笑ってしまった。



「何がおかしいのよっ!」

「いや、ほんとお前可愛いなーと思って」

「!な、何言って…!」

「だってホントの事だし」

「〜〜〜!バカな事言ってないで反省しなさいよ、もうっ!」



 不満げに叫ぶ彼女を、もう一度腕の中に抱き込んだ。
 もがく彼女を気にも止めず、俺は彼女のこめかみにキスを落とす。

 怒りの表情がまた、驚きの表情に変わる。

 ころころ変化する彼女のそんな表情に、俺はまた笑みを零した。






 …結局、こうなるんだよな。


 いつだって、俺の心は彼女の手の内なんだ。


 滅多に見せない彼女の表情。
 気高い中に見え隠れする脆さ。


 それを見せられると、俺に勝ち目なんてあるわけない。
 それ以上に抗いきれない彼女への愛しさを呼び起こすから。




(敵わないな、お前には…)




 やっぱり今日も全面降伏。


 悔しいけど…これも惚れた弱みってヤツ、かな。





end.

(2010.10.18)


――― after word ―――


リハビリ的な感じで短編です。
文章の書き方忘れて迷走してますね;;
ケンカの原因は、仲良くしてるエドガーとセリスを見たロックが嫉妬したとかしないとか(笑)




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