Prisoner of love

1


「いい加減にしろよ!わっかんねー奴だな」

「それはこっちのセリフよ!」




『Prisoner of love』





 言い放って、セリスは不満の意味を込めた目で俺をじっと睨んだ。
 キュッと噛み締められた唇に、怒りのこもった強い眼差し。
 どんな言葉も聞き入れないというようなその態度に、俺の苛立ちも募る。


 こんな些細なケンカは、俺達の間ではよくある事だった。


 いくらお互い好きでいても、時には意見もぶつかるし、相容れない時もある。

 けれど、大概の場合は俺が折れる事の方が多かった。
 今だって、彼女を怒らせてしまったのも、そんな表情にさせてしまったのも、本当は多分俺のせい。
 それは自覚してるし、謝らなきゃいけないのは俺の方なんだって判ってる。



 だけどさ。



 どうしても譲れない事だってある。
 引けない時もある。
 そりゃあ俺だって男だし。



 だから今回は少し…意固地になりすぎていた。
 言い過ぎだと思いつつも、後には引けなくなってしまって。




 手を伸ばした。

 その手が彼女の腕に触れそうになる瞬間、警戒するようにびくりと肩を震わせ、瞬く間に一線を引かれる。





 ―――来ないで。





 セリスの目は更に拒絶を示す。
 けれど俺は躊躇う事なくその一線を踏み越えて彼女の細い手首を強く捕らえ、そのまま強い視線で彼女をじっと見つめた。

 息を詰め、睨むその目が一瞬だけ戸惑いに変わる。
 途端、綺麗な藍色の瞳から零れた、




 一粒の涙。




「え…、」


 ヤバイ、と思った時には既に遅く…零れた涙は彼女の白い頬を伝って足元に落ちていた。


 …セリスを泣かせてしまった。


 泣かせた事は初めてじゃない。
 以前に一度だけ、想いが通じ合えた時に、泣かせた事はあった。

 その時は涙しながらも嬉しそうに微笑んで、その笑みと涙に俺の心も満たされて…俺はその笑顔をこれからずっと守っていこうと決めたんだけど。


 でも今は違う。

 涙の種類が全然違った。


 笑顔は当然向けられず、瞳から流れたそれは嬉しいとか悲しいとか、そういった類の涙ではなく、昂った感情の元で制御できずに無意識に零れたような…そんな涙だった。
 それを証拠に、セリスは零した涙を拭うことなく、今だ俺を強い瞳で睨んでいる。




 初めて見たその涙、その表情。


 俺が泣かせたくせに不謹慎かもしれないけれど、目にしたその姿はあまりにも







 …―――綺麗で、焦った。




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