■■■■ 消えない痛み
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『消えない痛み』
世界が崩壊した。
大地は裂け、空は未来を閉ざすように厚い雲に覆われて、一筋の光も射さない。
水は澱み、空気は濁り、花は枯れて。
ただあるのは、遠く視線の彼方に堆く聳える、強欲に歪んだ塔。
そして気づけば俺は、独りだった。
純真な魔導の少女は
一国の砂漠の王は
快活なその弟は
勝ち気な賭博師は
祖国を愛する剣士は
自然と共にあった少年は
魔導士と小さな絵描きの子は
暗い闇を背負った男は
皆は、一体何処へ行った?
強く気高く、けれど儚く脆い金の髪の彼女は
セリスは―――何処へ行った?
皆きっとどこかで生きている…そう信じている。今も。
けれどその希望と同じくらいの絶望が、影を潜めて心を取り込もうとしている。
もう誰も
生きてはいなかったら?
そんな筈はないと否定して、必ず生きているはずだと願うも、それを確信に変えるだけの強さはなかった。
それだけ、目の前の状況はあまりにも
…絶望的すぎた。
赤くくすんだ空を眺め、鉛のように重い空気を吸い込む。
人の気配を求めて街を訪れたけれど、どこにいても何等変わりはしない。
崩れそうな家屋。
親を無くして泣く子供。
子を探し叫ぶ親。
悲しみを帯びた空気は、ただ胸を圧するばかりで。
泣き出しそうに濁った空は、涙を流す事もできずに漂うばかりで。
目に映るそんなやるせない情景は、無意識にあの時の記憶を辿らせる。
―――今もまだ、後悔は消えない。