消えない痛み

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『消えない痛み』






 世界が崩壊した。





 大地は裂け、空は未来を閉ざすように厚い雲に覆われて、一筋の光も射さない。


 水は澱み、空気は濁り、花は枯れて。


 ただあるのは、遠く視線の彼方に堆く聳える、強欲に歪んだ塔。




 そして気づけば俺は、独りだった。




 純真な魔導の少女は
 一国の砂漠の王は
 快活なその弟は
 勝ち気な賭博師は
 祖国を愛する剣士は
 自然と共にあった少年は
 魔導士と小さな絵描きの子は
 暗い闇を背負った男は




 皆は、一体何処へ行った?




 強く気高く、けれど儚く脆い金の髪の彼女は




 セリスは―――何処へ行った?




 皆きっとどこかで生きている…そう信じている。今も。
 けれどその希望と同じくらいの絶望が、影を潜めて心を取り込もうとしている。



 もう誰も

 生きてはいなかったら?



 そんな筈はないと否定して、必ず生きているはずだと願うも、それを確信に変えるだけの強さはなかった。
 それだけ、目の前の状況はあまりにも


 …絶望的すぎた。








 赤くくすんだ空を眺め、鉛のように重い空気を吸い込む。
 人の気配を求めて街を訪れたけれど、どこにいても何等変わりはしない。


 崩れそうな家屋。
 親を無くして泣く子供。
 子を探し叫ぶ親。


 悲しみを帯びた空気は、ただ胸を圧するばかりで。
 泣き出しそうに濁った空は、涙を流す事もできずに漂うばかりで。

 目に映るそんなやるせない情景は、無意識にあの時の記憶を辿らせる。




 ―――今もまだ、後悔は消えない。





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