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ようこそ三日月堂へ!

お元気にしてますか?

第70話

万事屋のみんなにすべてを打ち明け、桂さんに会ってから一週間が経った。
あの日の翌日、新八君から少し大きな仕事で万事屋を留守にしますとメールが入り、気を付けてね、とだけメールを返したのだが。



「(…まさか、一週間も音沙汰なしとこれば、少し心配もするわけで…。)」



店番をしながら小さくため息をつく。どういう依頼なのか、どこに行っているのか。そんなこと一々こちらからは聞けないが、気にはなる。時々震えるケータイに、もしやと慌てて画面を開いても100%総悟からのどうでもいい、いつもの土方さん弄りのメールが届くだけ。



「そういえば町も少し…落ち着いてた雰囲気。」



あれから真選組は町への見回りをさらに強化させたらしく、朝から夜までどこかしらで黒い隊服を見かけた。その中にもちろん土方さんと総悟もいたが
この二人は町でみかけなくても、わざわざ店に一日に一度は顔をだしてくれた。



「(なおかつそれに総悟はメールをこうしてくれるわけだから…)過保護よね。」

「だれが過保護でさァ。」

「…!び、ビックリしたぁ〜…。驚かさないでよ総悟!」

「声かけやしたぜ。おめェ、これじゃあ店番もクソもねーじゃねーか。案の定、俺が入ってきた瞬間、慌てて店を出ていくクソガキがひとりいやしたぜ。」

「あっ!!?!」



私の顔を覗くように現れた総悟に驚きつつも、総悟の言葉にハッとして慌てて席を立つが、もちろんすでに手遅れ。総悟のいうように、総悟の隊服を見て慌てて店を出ていったのなら、おそらく最近頻発している万引きの一人だろう。



「ごめんね、ありがとう…。気を付ける…。」

「何考えてたんでィ。」

「あー…いや、ごめん、総悟は過保護だな、と。」

「なんでィ、俺のことか。なら、仕方ねーな。」

「あれ、てっきり過保護なわけねーだろとかって怒られるかと思ったのに。」



そういいながら、私はカウンターから出て、少し散らかっている売り場を端から順に整頓していく。立ち読みは結構だけども、せめて読み終わった本は、手にとった場所に戻してほしいものだ…。



「まあ、確かに心配っつーよりかは、暇つぶしの道具ってところでさァ。」

「いやいや、道具って!」

「けど、俺のことを考えてるってーのは、悪ィことじゃねーや。」



そういって総悟はいつもの棚に向かい、落語の雑誌を手にとりページをめくりはじめた。愛読書だというその落語の雑誌を読み始めたら、しばらくは店から出ていかない。つまり、仕事のサボり時間の開始の合図だ。



「…(こっちも変わった。)」



雰囲気は町だけでなく、この総悟の雰囲気も明らかに変わった。別に会話したりメールしたりする分には、前となにも変わりないか、接し方というか距離感が、明らかに変わった。それはあの日、一緒に出掛けた時からのような気がする。単純に一緒に出掛けたことで仲が良くなった、といえばそんな感じもするが、なんとくどこか、違和感もあるのだ。



「あの、すいません!」



そんなことを考えながらもしっかり手は棚の整理に動かしていると、背後から声がかかり、いつものように、いらっしゃいませ!と振り返ると、そこには、



「藤堂さん!」

「こんにちは、遊びにきました。」



この前、総悟と出掛けた大型書店、江戸堂で出会った文庫担当者の藤堂さんが立っていた。



「今日はお休みですか?」

「ええ、ようやく長勤務から解放されて…。あ、早速ですけど、棚を拝見してもいいですか?」

「おつかれさまですね。もちろんです、どうぞゆっくりしていってください!」



そういうと藤堂さんはさっそく嬉しそうに棚を端から順番にじっくりと見入るように見はじめた。



「あれ?…ああ!やっぱり!この前、名前さんとご一緒だった方ですよね?」

「…勤務中でィ。」

「真選組の隊士さんだったんですね!お勤めご苦労様です!」



どうやら藤堂さんは棚を見ている最中に、近くで雑誌を読む総悟に気が付いたらしく、律儀にも頭を下げて愛想のいい挨拶をするも、総悟ときたら藤堂さんを一瞥しただけで、すぐ雑誌の続きを読み始めた。



「…総悟、勤務中って、市民がその姿みても、勤務中とは思えないよ。」

「検閲中ってことで。」

「落語雑誌に検閲は入りません!もう!…まあ、本当に見回り中は見回り中で…。あの、常連さんなので、その…あまり気になさらず、」

「いえ、こちらこそお邪魔しました。本屋って誰にも気を遣わずひとりでひっそりと本に向き合いたいですよね!」



そういって藤堂さんは、僕も棚の続きを!といって、棚に視線を戻した。挨拶の笑顔や声のトーンからして好青年な印象は初対面からあったが、これは本当に好青年のようだ。総悟のような態度をとられてもこの返し…絶対、接客スキル高い。



「(…それに比べて私ときたら、銀さんとの初対面、接客スキル皆無だったなー。)」



なぜかふと昔のことが思い出されてつい苦笑がもれる。あれはあれで、結果的にはいい出会いだったが、藤堂さんのような接客をもっていたら、また違っていたのだろうか?いや、こればかりは性格の問題で、私にはできっこないと分かっていることだけども。



「…ッチ。土方からでィ。」

「呼び出し?なら、戻ってお仕事頑張って。その雑誌、取り置きしておこうか?」

「いや、明日も読みに来るから必要ねー。」

「…買っていってよ。」

「ああ、そういや旦那。しばらくは顔見ないかもしれやせんぜ。」


突然の総悟の言葉にどういうことかと首をかしげると、総悟は口止めされてるから知らねぇフリしとけよといって、耳打ちで少しだけ万事屋のみんなのことを話してくれた。



「今日の呆け面はどうせ旦那たちのことでも考えてたんだろ。心配すんなっつても無理だろうが、俺らは俺らで、旦那たちは旦那たちで、護るもん護ってるだけでさァ。だから大人しく待っていやがれ。」



そういって総悟はひらりと手を振ってお店を出ていってしまった。私は今聞いた話をもう一度、頭の中で反芻しながらそっと目を閉じた。

そっか。…総悟のいうように不安は不安だが、信じて待っていよう。銀さんがなんの“ケリ”をつけに“誰に”会いにいったのか、分かるようで分からないけれど、“帰ってくる”というなら、私はここで、おかえりを言える日を待つしかないのだろう。



「(…たしかに知らないフリしてるのも、大変ですね。)」



いつしか言われた銀さんの言葉を思い出していると、棚を見ていたはずの藤堂さんがいつのまにか目の前にいて、なにやら不思議そうな顔をしていた。



「…名前さんは、結婚していらしたんですか?」

「へ?」

「旦那、っていま。」

「…ああ!!」



藤堂さんの勘違いに気付き、私は慌てて旦那というのは、総悟がその人をそう呼称しているだけで、自分の結婚相手でも、ましてや恋人でもなんでもないことを説明した。



「なるほど。すいません、不躾な質問をして。ちょっと、驚きまして…。あの、では今の方は恋人…ですか?」

「ええ?!?!違います違います!友達です!!!」



第二の疑惑も慌てて否定をすると藤堂さんは、じゃあ嫌でなければ、といってそっとポケットから名刺を一枚取り出した。



「あれ?名刺でしたら以前もらいましたよ!でも、そういえば私の方はまだでしたね!少しお待ちください!」



そういってカウンターの引き出しに入ってる自分の名刺を取り出し、藤堂さんに遅れましたといって名刺を一枚渡すと、藤堂さんはそれを見てすぐに活版ですね!と気付いて、名刺を両手でそっと受け取ってくれた。



「ええ、このお店のご主人のお知り合いに活版印刷所の方がいらして、名刺をわざわざ作ってくれたんです。」

「とっても素敵ですね〜。僕も仕事用じゃなかったら、こういう雰囲気のあるもの作りたいです。あ、それでこれなんですけど…その、もう一度受け取ってもらってもいいですか?」

「ええ、いいですけど…?」



そういって以前ももらった同じ名刺を受け取る。二枚もらう理由は特にないのだけどと、少し戸惑っていると、藤堂さんはそれではそろそろお暇しますね、といって慌てた様子で店先に出てしまった。



「え、」

「なにも買わずですいません…!でもまた来ます!えっと、その、名刺の裏!裏を見てくださいね!それでは!!」



そういって小走りで去っていく藤堂さんを不思議に見送りつつ、言われた通り手元にある名刺の裏を見やると



「…アドレス…ですか。」



そこにはアドレスと電話番号が綺麗な字で書かれていた。この一連の流れ、どこぞの乙女ゲーム的展開なんだと私は思わず呆気にとられ、そのまま店先でしばらく呆然と立ち尽くした。



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