28
あれは遡ること2ヶ月前──追加テストの終了後に私となおくんが個別に呼び出された時のこと。
「You達には更に特別二ー…合宿までの特別課題を言い渡しマース」
「夏休みの……」
「合宿までの?」
「オリジナルで一曲…歌もダンスも完璧に仕上げて下サーイ」
学園長の言葉の意図がいまいち読めず、なおくんと顔を見合わせる。
「俺の曲を、香織が歌うってことですか?けど何のために…」
「そのトーリ…モチのロンで、披露する場は準備してアリマース」
「披露する場?」
「合宿のオリエンテーションデース!!」
あぁ、だから【合宿までの特別課題】なのか、納得。だけど私達が個別で呼び出されている辺り、全生徒共通の課題って訳ではないんだろうと思う。
「(どうして、私達だけ?)」
うーん、となおくんと同時に首を傾げた。
一曲仕上げる事はそこまで負担ではないし、合宿までの日数を考えれば間に合うと思う。だけど何か目的があっての事なのかそれとも気まぐれか…学園長の狙いが私となおくんにはいまいち読み取れなかった。
「じきに分かりマース」
私達の思考を読み取ったかのように、学園長はサングラスを光らせてそう言った。
「ねぇなおくん、学園長は何を考えてるんだろう」
「んー…まぁ何か狙いがあるんだろうけど。とりあえず曲作ってみるよ。あと練習場所と時間も考えなきゃな」
「そうだね」
学園長は私達の課題に向けて、一つだけ条件を出した。それは【他の生徒達に知られないようにすること】。
だから身近にいるSクラスの皆にもバレないように練習を進めなければならない。
私となおくんは授業の合間を縫って、新曲の作成と練習に取り組んだ。
そして、迎えた合宿当日───パフォーマンスは無事成功。たくさんの拍手を受けて、ほっとした私は深くお辞儀をした。
「…さ、見て分かって貰えたと思うが。お前ら生徒が当面目指さなきゃいけないのは、このレベルだ」
「合宿中にペアを決めて、お互い切磋琢磨してちょうだいね!」
私達のパフォーマンスを見て温かく拍手をしてくれた生徒のみんなだけど、先生の言葉を受けて空気が変わった気がする。合宿を前にやる気に満ちた表情──学園長の狙いはコレだったのかもしれないと悟った。
「かおちゃんとなおくんもよ!あなた達の実力は校内でもトップクラス。それはあくまで【今の時点】での話よ」
「油断してるとあっという間に追い抜かれるからな。優秀なのは、お前ら二人だけじゃない」
先生達の言葉に、なおくんと目を合わせてから大きく頷いた。私達もこのままでは終われない。もっともっと高みを目指さなくちゃ。
アイドルとして、立派にデビューするために…!
「合宿は6泊7日!ペア決めの期日は──2日目の夜までよ!」
「明日までか…意外と時間ないな」
「そうだね…」
なおくんと小声で話す。合宿中から早速ペアでの練習を始められるように、前半でペア決めをしてしまおうという意図なのだろう。
「あともう一つ言っておくが──」
全校生徒の方を向いていた日向先生が、急に私達二人の方に向き直った。な、なんだろうと思い姿勢を正す。
「水谷ツインズがペアを組むのは禁止だ」
………
「はああぁぁ!?」
隣に立っていたなおくんの声が大きく響いた。
私も驚いて、きょとんと瞬きを繰り返す。もちろん私自身はなおくんと組むとすでに決めていた訳じゃないけど、まさかはじめから禁止されるとは思わなかったから。
「そりゃそうよ〜。双子ともなると息はぴったりでしょう?公平を期するオーディションで多少は有利に働いちゃうし」
「そんなの、関係ないだろ!俺は香織とペアを組むつもりで最初から──」
「水谷、周りを見てみろ」
遮るように、低い声で発せられた日向先生の言葉になおくんが口をつぐむ。私も一緒に先生の言葉の続きに耳を傾けた。
「これだけ大勢の生徒がいる。他の奴らとの可能性も考えずに、お前らは【兄妹】という狭い殻の中に収まってるつもりか?」
「……」
「これはお前ら二人の可能性を広げる為でもある。プロを目指すなら、身内で満足せずにもっと外の世界に目を向けてみろ」
真剣な顔で話す日向先生。その口調は厳しいけれど、きっと私達への期待の表れでもあるんだろう。ようやく納得した様子のなおくんも、「…分かりました」と答えた。
「それでは各自、今日明日中にペアを決め、俺達教員の所へ報告に来ること!」
「じゃあ皆頑張ってね!では一旦解散!」
こうして早乙女学園のペア決め──その駆け引きの火蓋が切って落とされたのだった。
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