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「Aクラスーっ」
「Sクラス合同!」

「投げて打って楽しんじゃえ!バラエティ実習という名の野球大会!はっじめるわよー!」



さすがアイドルの養成学校!早乙女学園では歌やダンスの授業の他に、こういった特殊な授業も組み込まれれている。


「な、なぜ野球大会なんですか?」
「いい質問よかおちゃん!バラエティ番組においてスポーツ大会は鉄板!その中でも野球は色々な番組で扱われてるの」
「バラエティもそうだが、スポーツ関係の仕事をする機会もあるからな。出来るに越した事はないってこった」


ふむふむ、と首を縦に振った。横にいる翔ちゃんを見ると、気合十分みたいで早速ストレッチをしている。

バラエティ実習かぁ……えっと、確か一回目はバナナの皮リアクション実習、二回目はクラス内でパイ投げ…そして今回はクラスの垣根を越えた野球大会ということらしい。さ、さすが早乙女学園の考える授業は一足違う……。


いつもの制服と違い、配布されたユニフォーム風の衣装に身を包む。先生達いわくどうやら形から入ることが大切、らしい。白と黒のストライプのユニフォームを着た私たちSクラスの面々は、輪になって作戦会議を立てていた。



「Aクラスのメンツ…結構要注意だぜ」

ビシッと指をさしながら、神妙な面持ちでそう話すのは翔ちゃんだ。


「え?そうなの?」
「あぁ。音也と渋谷は運動神経抜群、聖川は未知数だがタッパはあるし…なんてったって那月の怪力だ」
「か、怪力……」


あの、ほんわかした四ノ宮くんが?にわかに信じがたいけど、翔ちゃんの青ざめた顔を見たら信憑性が増した。Aクラス、確かに強敵かもしれない…。

うちのクラスも翔ちゃんをはじめ運動が得意そうな子が沢山いるけど、少なくとも私は運動が得意な方ではない。


「(足を引っ張らないようにしなくちゃ……!)」

一人で小さくガッツポーズをして気合を入れる。
日向先生の合図で、試合が開始された。

「「よろしくお願いします!!」」







──

「おーし!行くぜー!」

大きくバットを振り、見事ホームランを決めた翔ちゃんや、運動神経の良い皆のおかげで一時はリードする私たち。だけどAクラスの猛攻に押され、いつの間にか逆転を許してしまっていた。
(那月くんが打者の時に、バットごと振り投げて遥か遠くのビルの窓を割ったのにはさすがに驚いてしまった)




第9回表……Aクラス最後の攻撃。

ここを凌げば、まだ私たちの勝利の可能性は残される。よし!頑張らないと…!


この試合の中で、私の運動神経の悪さを察してくれた翔ちゃんは「香織は俺がフォローするから」と言って、私を自分の守備範囲の近くに配置してくれたのだ。


おかげでここまで、ほとんどボールに触れずにいられた。
とは言え……当然飛んでくることもある訳で。



「ああああ来ちゃった翔ちゃん!」
「香織ー!大丈夫だ!落ち着け!」


友ちゃんが打ったボールがコロコロと私の目の前に転がってくる。やっとの事でミットに収めて、キャッチャーのレンくんの方向を確認した。


「香織、こっち!」
「えーいっ」



大きく深呼吸をして、右腕を振りかぶる。


「香織!おまっ…何してんだ!」
「え?何って……」
「おー…飛んでった飛んでった」
「大暴投にも程がありますね」


全力でキャッチャーのレンくんに向けて投げたボールは、思い切り右に逸れてしまう。


そして、もちろんキャッチャーのミットに収まることなく、そのまま───





「ぬぐぁっ!」
「ま、マサー!!!」
「きゃー!!!」

なんと、バッターボックスに待機していた聖川くんの顔面に直撃した。





「いやぁぁぁごめんなさいごめんなさい!!!」


サァーっと血の気が引いていく。大声で叫んだ私はそのまま仰向けに倒れた聖川くんの元に走る。



「ごめんなさいごめんなさい!」
「マサー!生きてるー?」
「聖川くん……!本当にごめん!生きて!」


こんな綺麗な顔面にボールをぶつけるなんて…!傷が残ったらどうしよう!ご両親に顔向け出来ない!


額を大きく真っ赤に腫らした聖川くんが、うっすらと目を開けた。よ、良かった…!意識は一応あるみたい…!おでこ、たんこぶになってしまっているけども…!




「一十木…香織……どうか、じいに、伝えてくれぬか……」

みんなで仰向けに横たわる聖川くんを取り囲む。一人、レンくんが必死に笑いを堪えているのが分かったけど、今はそれを気にしている場合じゃなかった。

聖川くんの言葉に、私と一十木くんが大きく頷く。


「うん、何でも聞くよ聖川くん」
「マサ……それ以上喋ったら身体に悪いよ……」
「何なんだコレ、ちょっとふざけてるだろお前ら」


まるでドラマのワンシーンのように、私と一十木くんで聖川くんの手を握った。バッグにBGMが流れている。(気がする)
真顔でツッコミを入れる翔ちゃんにはあえて気付かないふりをした。



「真衣を、妹のことを──頼む、と……」


聖川くんの手の力が抜けて、ぱたりと地面に手が落ちる。それを見て私と一十木くんは涙を流した。


「マサ……」
「聖川く、」
「「じいーーーっ!!」」


「うん、合格!三人ともバラエティとして100点満点だわ!!」
「何だよこの茶番!!」


翔ちゃんのツッコミがグラウンドに響き渡った。

大騒ぎの中、無事にバラエティ実習は終了。
試合は結局、Aクラスの勝利で幕を閉じた。


そして私は聖川くんに湿布を買いに、薬局へと全速力で走るのだった。





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