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「優子のライブ、楽しみだね翔ちゃん!」
「……おう」

学校が休みの日曜日、空はまっさらに晴れていて、今日は外出にはもってこいの日だ。そんな日に、何故か俺の隣には私服姿の香織がいた。何の邪気も無い純粋な香織の笑顔を見て何とも言えない複雑な気持ちになる。二人きりで街中を歩いて目指すのは、とあるライブハウスだった。


話は数日前に遡るのだが───





「「ガールズバンド?」」
「そ、今度ライブやるんだけど良かったら来ない?」


と言っても先輩バンドのオープニングアクトだけどねー、と言いながら蜂谷がチケットを差し出した。元々蜂谷は中学の同級生とバンドを組んでいて、まだアマチュアだが時々こうしてライブに参加しているらしい。チケットを受け取った俺と香織、直希は三人で顔を見合わせた。香織の大きな瞳がよりいっそうキラキラと輝いている。



「ごめんねハッチー、週末はレディと約束が」
「お前は誘ってねーよ」
「私はその日、所用がありますので」
「ノリ悪いなートキヤは。俺は興味あるから行こうかな」

チケットの裏面を見ながらそう言う直希に続いて、香織も大きく首を縦に振った。


「私も!優子のライブ見たい!翔ちゃんも行くよね!?」


一緒に行きたい…!と言わんばかりのキラキラとした香織の瞳。もちろんそれを拒否する訳にはいかず、断る理由もなかったから首を縦に振った。

ライブが始まるより前に蜂谷へ差し入れを買おうと、早めの時間帯に駅前で三人で待ち合わせをする約束をした。
そこまでは、良かった。良かったんだが……



「ふ、腹痛!?」


当日、時間になっても現れたのは香織ひとり。直希は?と聞くと、香織はごめん!と両手を合わせた。

聞くところによると、どうやら腹が痛くて部屋で倒れている…らしい。朝方、死にそうな声で香織に電話が入ったとのことだ。


「なおくんね、昨日大人気のラーメン屋さんの行列に並んだんだって。でも今朝お腹壊しちゃったみたいで」
「……あほか、あいつ!」


いや、だけど完璧に見える直希にもそんな一面があるかと思うと…少しだけ安心もするな。本人にはちと悪いけど。つか、とんだけラーメン好きなんだあいつ…!作曲家じゃなくてラーメン屋の店長目指し出すんじゃねぇかその内…。


「大丈夫なのか?一人にして…」
「大丈夫大丈夫!前からこういう事あるの、一年に一回くらい」
「な、なら良いけどさ……」
「『あの店食べログで☆1にしてやる…!』って言ってた」


香織は思ったより気に止めて無いようだ。まぁ食べログがなんちゃらとか言っている内は本当に平気なんだろう。


それより、問題はこの後だ。
あくまで、クラスメイトのライブを見に行くだけ。それに意図して二人になった訳じゃない、けど。


「(二人きりでラッキーとか…何思ってんだ俺!)」


寮生活だから香織の私服を見た事が無い訳ではないが、こうして外出するのは初めてだ。しかも二人きり……つーかすげぇ可愛いな今日の服。春らしいパステルカラーのミニ丈のワンピースを着た香織に、つい見とれてしまう。


赤くなった顔を見られぬよう、こっそりと首を動かして逸らした。そんな俺の気持ちなど知らないであろう香織は……なおくん大丈夫かな、とか、優子のバンド見るの初めて、とかコロコロ表情を変えながら話している。


「差し入れ買わなきゃ!翔ちゃんこっち!」


ぱっと俺の左手を自分の両手でを取って、香織がショッピングモールの入口へと引っ張っていく。突如繋がれたその手の温もりに、柄にもなく緊張してしまう。

香織、手小さい。
それに、


「(デート、みてぇ)」

街並みガラス映る、いつもより近い距離感に緊張する。
傍から見たら、恋人同士に見えるんだろうか。
そう見えたら、嬉しいよな。


返事をしながらその手をさり気なく握り返すと、香織は少し照れたように笑う。
店の中に入ってから、自然と離れた手がちょっぴり寂しい、だなんて。相変わらず、浮かれてる自分の頬を軽く叩いて気を取り直す。


「甘い物なら間違いねーかな」
「……」
「香織?」
「う、うん!良いと思う!」


俺の声掛けに慌てて反応した香織は、バッとディスプレイに視線を落とした。その様子に少し違和感を覚えたが特に気にすることも無く、俺も同じように視線を落として蜂谷への差し入れを考える。結局相談して、色とりどりのクリームがデコレーションされたエクレアを、バンドの人数分購入した。







────


開場よりもかなり早い時間に、俺達二人はライブハウスに到着した。関係者通路を通って、蜂谷達がいるであろう楽屋のドアを開ける。


「優子っ、来たよー!」


差し入れをぶら下げて、香織と二人で楽屋に入るが、



「……うーん」


そこには腕を組んで、ライブ前だと言うのに眉間に皺を寄せる蜂谷の姿があった。





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