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「それではこれより追加テストを始める!」



日向先生の大きな声が静かな講堂に響いた。
前もって言われていた通り、他の観客は誰も居なくて私達だけ。それが余計に緊張感を煽る。

この日のために取り組んできた練習の成果を、いよいよ発揮する時だ。


試験のルールは簡単。
1グループずつ順番に、課題に出されたテーマを入れ込み、制作した楽曲をフルコーラスで披露する。一人一台ずつハンドマイクを持ち、振付や衣装の準備はなし。

あくまで楽曲と、ハーモニーを中心とした歌の技術を見るとのことだ。



レコーディングテストを失敗した私にとって、大切な挽回のチャンス──プレッシャーで高鳴る胸の鼓動を抑えようと、目を瞑って深呼吸する。



「大丈夫かい?香織」
「レンくん……大丈夫だよ、ありがとう」
「あまり気負わないで、いつも通りに、ね?」
「そうです!ワタシ達、たくさん練習してきた。練習の通りに歌えば良いのです!」
「それに今回は一人じゃない。俺達もいるから……安心して」
「……うん。そうだね、そうだよね!」

交互に私の肩を叩いて励ましてくれるレンくんとセシルくんが頼もしい。だけど中々緊張は拭えなくて、二人にはバレないようにまたそっと胸に手を当てて、呼吸を整えた。


ステージ袖で待機をする私達。
今、ステージの上では一ノ瀬くん、四ノ宮くん、友ちゃんのグループが歌っている。
ちなみに春ちゃんと仲良しになってから、自然と友ちゃんとも話すようになった。女の子の友達がまた増えたのは、素直に嬉しい。



優子が三人の為に作曲したのは、美しいバラード曲。ピアノの伴奏に乗せて奏でられるそのメロディーは、[切なさ]というテーマにピッタリはまっていて、それを表現する三人の上手さと完成度の高さにも圧倒されてしまう。

特に一ノ瀬くん。レコーディングテストのような激しい曲だけじゃなく、こういうバラード曲も見事に歌いこなしている。HAYATOと同一人物……というのは中々信じ難いけれど、でもやっぱり一ノ瀬くんは上手い。それに食らいつく二人も本当に凄くて……。



「香織ちゃん」
「春ちゃん……」

ドキドキする胸を抑えて、順番を待っている私に春ちゃんがそっと近付いた。緊張しているのを悟られないように適当に笑ってみるけど、春ちゃんはそれには触れず、優しく微笑んでくれた。


「あの…頑張ってください。私は見守ることしか出来ませんが、その…自信を持って大丈夫です!」
「うん…」
「だって香織ちゃんの歌、とっても素敵ですから」


そう言って差し出してくれた春ちゃんの手をキュって握ったところで、私達の出番を告げる日向先生の声が聞こえた。レンくんとセシルくんと目を合わせて、小さく頷く。


「……ありがとう!行ってきます!」





広々とした大きなステージに、間隔をあけて三人で並ぶ。天井のライトが私達の身体を照らして、体温が上昇していくのが分かった。最初のフレーズを頭の中で復習してから、ひとつ息を吸って呼吸を整える。両サイドに立つ二人の事をもう一度しっかり見て、私はマイクを口元に当てた。


目を合わせて、同時に息を吸う。








───


「へぇ……アカペラから入るのか」
「あ、えと…水谷、くん」
「直希で良いよ」


香織達のグループのパフォーマンスが始まった。舞台袖で祈るように手を組んだ七海は、緊張の面持ちでステージの三人を見守る。
声をかけたところで呼ばれ慣れていない名字で呼ばれたものだから、そう伝えたら七海は控えめな声で直希くん、と呼んでくれた。


七海の横で、俺もマイクを握る香織の姿を見守った。アカペラから始まったその曲は、ゆっくりとハーモニーを奏でる。そして突如流れたサウンドと同時にテンポアップする。



「(ふーん……)」

アカペラから始まる曲は珍しくもない。でも一番最初の美しいハーモニーが、その後に流れる爽やかなチューンをより引き立てている。


あの時──レコーディングテストの時に感じた予感に間違いはないようだ。
多分、彼女…七海にはセンスがあるんだと思う。素直な性格故なのか、楽曲は良い意味で飾り気がない。だけど聴いてて新鮮な気持ちになる。上手く表現出来ないけれど耳に心地良いそんなサウンドを聴いて、こんな奴が同世代に居るんだなと思ったら、自然に笑いが漏れた。


「な、何か変な所ありましたか……?」
「いや、何でもない」
「え?え?」
「おーい直希ー!そろそろ出番だぞ!」


香織のグループの曲が終わり、拍手の音が鳴ると同時に、聞こえた翔の声。きょとんとする七海に軽く挨拶をしてから、俺は最後の確認のために慌てて3人の元へ向かった。




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