13



香織を探して走り回った俺は、最後に体育館に辿り着いた。


レコーディングテスト中という事もあり、当然人は居ない。諦めて外へ出ようとした所で、体育倉庫から物音が聞こえた。



ドンドンと扉を叩くと中から聞こえる香織の声──急いで開ければ、涙目になっている香織と梅澤の姿があった。



俺の顔をちらりと見た梅澤は小さく舌打ちをする。

梅澤に壁に押し付けられている香織は、シャツのボタンが胸元の見えるギリギリまで開けられていて、今梅澤が香織に何をしようとしているかは簡単に想像が出来た。




「梅澤てめぇ…!香織に何やってんだ!」


俺はそのまま梅澤に殴りかかった。反動で梅澤は床に倒れ込み、手を解放された香織はその場に座り込む。


「翔ちゃ…」
「香織!大丈夫か!?」
「だいじょぶ…ありがと」


急いで香織の側に駆け寄る。
見たところ怪我とかは無さそうだ。


はだけた胸元を出来るだけ見ないようにして、俺は自分の着ていたパーカーを脱いで香織に羽織らせる。



「梅澤…!こんな事して許さねぇからな!」
「なんだよ…テスト中だったんじゃ…」
「ノーノーノー…これはいけませんネー…」
「うおっ!学園長!」


起き上がった梅澤にもう一発かましてやろうとした所で、背後から突然聞こえた声。
いつの間に居たのか、そこには学園長が立っていた。

香織も驚いたのか、俺と一緒に瞬きを繰り返している。



「学園長、いつの間に…」
「それはそれとシテー…Mr.ウメザワ…Youは自分が何をしたか分かってますネー…?」


サングラスが怪しく光る。
表情は分からないが、その声はいつもと違い低く、怒りを含んでいる気がした。



「現行犯逮捕ネー…Mr.ウメザワは退学処分デース」
「待って下さい学園長!俺は…!」
「今すぐに学園長室に来なさい」

学園長のただならぬ雰囲気に、思わず息を呑む。梅澤の顔も一気に凍りついた。


「分かりました…」


唇を噛みながら悔しそうな顔をした梅澤は、ゆっくりと学園長の後ろについて外へ向かった。





「梅澤くん!」

床に座り込む香織が大きく声を上げる。予想もしていなかった香織の行動に、俺の方が驚いてしまう。
香織はそのまま言葉を続けた。


「作曲に興味なかったの、嘘だよね…?」
「香織、」
「好きじゃなかったら、あんな素敵な曲…書けないよ」


香織のその問いに、梅澤は何も答えなかった。ただ小さくごめん、とだけ呟いた。






「香織」
「翔ちゃん…」


学園長と梅澤が去ってから、香織はしばらく放心状態でその場を動かなかった。

心配になり顔を覗き込めば、大丈夫だよ、と一言呟いた。顔は何とか笑っていても、肩が小さく震えているのを俺は見逃さなかった。




「やだ…なんでこんなに震えてるんだろ、」


か細い声で話しながら、身体を震わせる香織。


そうだよな、当然だ。怖かったに決まってる。
あと少し、助けに来るのが遅れていたら一体どうなっていたかと思うと、マジで恐ろしいと思った。


そんな香織を見て、俺はたまらずふわりと優しく抱きしめた。




「怖かっただろ。すぐに助けに来てやれなくてごめんな」


すると香織は安心したのか、翔ちゃんありがとう、と言ってくれた。声が涙ぐんでいる。本当に怖かったんだと思う。俺はただ抱きしめて、香織の背中をさすることしか出来なかった。



「でもね、翔ちゃん…私、梅澤くんの曲好きだったんだよ」
「うん」
「なんで、こんなことになっちゃったのかなぁ…」
「香織は悪くない。悪くないから…」



俺の胸に顔を埋めた香織はそのまま小さな声で泣いた。

香織が落ち着くまで俺は、自分より小さなその身体をただただ、抱きしめていた。




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