11
「さて今日はレコーディングテストの本番だ!」
学園に入って最初の腕試し。いよいよレコーディングテスト当日がやってきてしまった。
教壇に立つ日向先生の言葉に、教室内の空気がピリつく。どのペアもこの日のために一生懸命練習を重ねてきた。その成果をいよいよ披露する時だ。
「作曲家コースの奴は、事前にCDを俺に提出しろ。15分後にレコーディングルームに集合だ。遅刻しないように」
教室がざわざわとする中、続々とCDを提出しに行く作曲家コースの生徒達。その列になおくんと優子も並んでいる。しかし、私のペアの彼の姿はそこにはなかった。
朝登校した時から今のホームルームまで、ずっと姿が見えないパートナーを探して、私は教室内をきょろきょろと見渡した。
そんな私の様子がおかしい事に気付いたなおくんが、私に声をかけてくれる。
「どうした香織」
「あの、梅澤くんが見当たらなくて…」
そうなのだ。
昨日最後の練習を終えて別れた後、梅澤くんと連絡が取れなくなっていた。
朝のホームルームでも現れないとなると、さすがに心配になってしまう。何か、あったのかな…
テストが始まるのは15分後。
生徒達は続々と教室を出て、それぞれすでにレコーディングルームへ向かい出している。
「おい香織、行かないのか?」
「早く行かないと遅れるわよ」
私を心配して、翔ちゃんや皆が近寄ってきてくれる。教室の入口のドアを見ても、そこから梅澤くんがやって来ることはない。
「私ちょっと探してくるね」
「間に合わないぞ、大丈夫なのか。CDも提出していないみたいだし」
「うん。でも一人で行く訳にもいかないから」
ごめんね、と一言みんなに断ってから一人、彼を探しに出掛けた。
時間はあまりないけど…幸い私達は後ろの方の順番だ。最悪、自分の出番までに戻れば大丈夫だよね。
───
はじめは呑気にそう考えていたけど、探しても探しても見つからない姿に、さすがに焦ってしまう。
初めの練習の時に交換した電話番号に電話をかけても、繋がらない。
校舎内を端から歩いて周り、ひたすら梅澤くんの姿を探すけど、彼は何処を探しても見つからなかった。
どうしよう。慌ててスマホの画面を見るともうとっくに15分は経過していて…
「テスト、始まっちゃった…」
するとそのタイミングで手に持っていたスマホからバイブ音が鳴った。
LINEに一通のメッセージが届いていて、急いで確認する。差出人は梅澤くんだ。
『最後確認したいことがあるから、体育倉庫まで来てくれる?』
「体育倉庫?どうして…」
どうして教室に来てくれなかったのかとか、何故体育倉庫なのか、とか…色々な疑問は残るけれど、ひとまず連絡が取れたことに安心する。
急いで「了解です!」とだけ返信をして、私は走って体育倉庫まで向かった。
───
学園の体育館にある倉庫。
ほとんど中には入ったことはない。
走ってきたせいで切れてしまった息を整えて、私は重い倉庫の扉を開いた。
「梅澤くん!」
「あ、水谷さん。ごめんね、呼び出したりして」
少し埃っぽい体育倉庫の中。電気もついてない薄暗い中で、梅澤くんがポケットに手を入れた姿で待っていた。
重い扉を閉めると、更に暗くなる。外から差す太陽の光で、梅澤くんの顔がぼんやりと浮かんだ。
「ううん…あの、テストもう始まってるよ?どうして、」
「のこのこ一人でやって来たんだ」
「えっ…?」
「何?もしかして本当にテストの確認だと思った…?」
怪しい笑みを浮かべて私に近付く梅澤くんに、恐怖を覚えた時には、もう遅かったのかもしれない。
「…っ!」
気付いたら両手を掴まれ、梅澤くんに壁に押し付けられていた。
[ 12/49 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]