08
「さて、いよいよ今日から本格的な授業に入っていく訳だが──」
朝のホームルームが始まった。今日からいよいよ本格的にアイドルを目指すための勉強が始まる。
本気でアイドルや作曲家を目指してきている生徒たちだからこそ、みんな真剣。
緊迫した顔で全員が日向先生の顔を見つめていた。
「まずはお前らの最初の腕試しだ。再来週にレコーディングテストを行う!アイドルと作曲家、それぞれペアになり一曲ずつ披露してもらう」
黒板に大きく書かれた日程とレコーディングテストの文字。
教室内がざわついた。3月に行われる卒業オーディションとほぼ同じ形式。まだ1年間あるとはいえ、現時点での実力差がはっきりと分かってしまうことになる。
「卒業オーディションのペアは自由に決めていいことになってるが、まだお前らも互いの実力を知らないだろうからな。今回はくじ引きでペアを決めるぞ」
そう言って日向先生が白い箱を2つ取り出した。
「今から順番に、アイドルコースと作曲家コースに分かれてそれぞれくじを引け。同じ番号が書いてある奴が暫定ペアだ。早速始めるぞ」
ざわつく教室内。生徒が列になり、次々とくじを引いていく。
私が引いた5番の人は誰かな、ときょろきょろ探していると、後ろから男の子に声をかけられた。
「もしかして、水谷さん5番?」
「うん、そうだけど…」
振り向いたら同い年くらいの男の子。
彼が持っている番号の書いたくじを見ると、確かに同じ番号が書かれている。この子がペアなんだ。
「作曲家コースの梅澤です。よろしくね」
「水谷香織です。こちらこそよろしく!」
お互いにこやかに挨拶を交わし、握手をする。うん、とりあえず仲良くなれそうな子で安心した。
「ちっ…香織の相手は男か…」
「あんた何言ってんの」
作曲家コースのくじを引いたなおくんと優子がそんな会話をしているからつい苦笑いしてしまう。
他のペアも続々と声をかけあっていて、ペアが順調に決まっている様子だった。
ちなみに優子のペアはレンくんらしい。あのチャラ男か、とぼそりと零していたから、そんなこと言わないでと止めておいた。
「そんな冷たいこと言わないでよハッチー。せっかくだから仲良くしようじゃないか」
「はいはーい、まぁ私はアンタの取り巻きみたいにホイホイ連れ添う気はないから、その辺りはよろしくね」
二人の会話を聞きながら周りを見渡して翔ちゃんを探していると、翔ちゃんもすでにペアを見つけたらしく、同い年くらいの女の子と会話を交わしている。翔ちゃんのペアは、女の子なんだ。
「あはは…ところでなおくんのペアは?」
「私です」
「わー…一ノ瀬くん大変だぁ」
「おい、どういう意味だよ香織」
「そのままの意味だもん。だってなおくん、音楽のことになるとスパルタになるでしょ」
でも覚えている限りだと、なおくんが作った曲を私以外の人が歌うのって初めてだ。…あ、お母さんも除くけれど。
それはそれで、すごく新鮮だし楽しみ。
一ノ瀬くんはなおくんの曲をどう表現するんだろうって。なおくんも一ノ瀬くんをイメージしてどんな曲を書くのか、ライバルのはずなのに楽しみだ。
「一ノ瀬くん、なおくんの曲すごいから!大変だけど頑張ってね!」
「おーい、ハードル上げすぎんなよ」
「はい、ありがとうございます」
その後は自由練習の時間。決まったペアと交流を深めたり、楽曲の相談をするということで、それぞれ解散となった。
───
「水谷さんはどうして早乙女学園に来たの?」
私は梅澤くんと曲の方向性を相談するため、寮の談話室にやって来た。
近くには同じように打ち合わせをしているペアもいる。
突然の質問に少し驚きながらも、なるべく笑顔で応えた。
「昔から歌うことが大好きだったんだ。歌うことを仕事にして、誰かを幸せに出来たらなって」
「へぇ、そうなんだ」
「梅澤くんはどうなの?」
「俺は、…まぁ良いじゃん。それよりさ…」
ごく自然な流れで聞いたはずなのに、何故か梅澤くんは気まずそうに目を逸らした。なんだろう?少しの違和感を抱きながらも、話を続ける梅澤くんの声に耳を傾ける。
「とりあえず最初のテストだからさ、王道路線の曲はどうかなって思うんだ。バラードとか、水谷さん似合うと思うし」
「そうだね!いいかも」
「良かった。今度水谷さんのイメージで1曲作ってみるから待っててもらえる?」
「うん、ありがとう!」
まぁ、いいか。
私の目の前で爽やかに笑う梅澤くんを見ていたら、そんな違和感も少しずつ消えていった。
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