取り巻き少女Aの苦悩

高校に入学した時から、ずっと彼が好きだった。

その華やかな容姿と、誰にでも優しい紳士的な態度に、もれなく魅了された。


そんな中、彼が高校を中退して、アイドルの専門学校へ行くと聞いた。
もう、それはそれは学校中で大騒ぎで。


みんなが追いかけるのを諦める中、私はレン様の側を離れることなんて、考えられなかった。



だからこうして、


「レン様〜!今日も素敵です!」
「ありがとう子羊ちゃんたち、みんなもとても美しいよ」
「「きゃーっ!」」



死ぬ程音楽の勉強をして、早乙女学園に強引に入学した。
顔には自信がなかったから、作曲家コースとして。小さな頃ピアノを習っていたとはいえ、受験はもうそれは大変だった。

よく合格出来たな、というのと、そこまでしてしまう自分の積極性に驚いてしまう。



早乙女学園に来ても、レン様の人気は凄まじくて。

前の高校と同じようにあっという間にファンクラブが出来、取り巻きが出来。

結局何も想いは伝えられないまま、私はただの取り巻きAに戻ってしまった。


それでも、私はレン様の側に居られるのなら何でもいいんだ。




────


今日も放課後、寮のラウンジで優雅にティータイムを過ごすレン様の周りを囲む。

あぁ…本当にどんな姿も絵になるなぁ。
かっこいいなぁ、と思う。


それにレン様は話上手で、聞き上手だ。
たくさん話題を持っていて、話に尽きることはない。

それなのに会話に入れない女の子がいると、「君はどうなんだい?」と話を振ってくれる。

そういう所が、好き。
昔からずっと。



基本的には常に大勢の女の子に取り囲まれているから、レン様と二人きりになれる機会はほとんど無い。





だから、突然こうして二人だけになると、どうして良いか分からず、どぎまぎしてしまう。


「れ、レン様!」
「やぁ、何してるんだい?」
「え、えっと…次の課題を!です!」

私がレコーディングルームで一人作曲に励んでいると、突然レン様が部屋に入ってきたのだ。

緊張し過ぎて、つい吃ってしまった。



へぇ、と言いながら私の横から譜面を覗くレン様。
き、距離が近い…!!

レン様の吐息が耳にかかりそうなくらい、近い距離に緊張する。心臓、ばくばく言ってる。



「…それで、君はどうして俺を追いかけてきたの?」
「え…」
「一緒だったよね、前の学校でも」
「…っ!ど、どうして…」
「気付いてたよ、ずっと前から」

耳元でレン様の声が響く。
その声に、すでにノックアウトされそうだ。



「わ、私は…」
「うん?」

横から私の顔を覗き込むレン様。
微笑むその顔は、本当に綺麗だ。


「レン様の、側に、いた…くて」
「へぇ、そうなんだ。嬉しいね」
「わ、私はずっと前から、レン様のことがっ…」


もうヤケになって、この想いを告げようと思ったら、唇にレン様の人差し指がそっと添えられた。


「え、」
「その続きは今度のデートで、聞こうかな」
「レン様…?」
「行きたいところ考えておいて。明日、寮の部屋まで迎えに行くから」


あぁ、これは抜け駆けになるのか。
他の女の子に恨まれないか。
これから取り巻き仲間の皆に、どんな顔をして会えばいいのか。




「他のレディには内緒だよ、なまえ」


自分の唇に人差し指を添えたポーズでウインクをするレン様に、私はきっと、もっと夢中になってしまうんだ。



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