Real Intention
眠気と戦う深夜の時間帯。早く寝てしまいたいのに待ち人が帰って来ないからひたすら起きているしかない私は、大きく欠伸をした。ついに日付が変わってしまったところでインターホンが鳴る。画面に映る人物の姿を確認した私は、大きく溜息を吐いてからドアを開けた。
「…ったく!悪いなこんな夜中に」
「分かってるならこんな時間まで連れ回さないでくれる?大体なんでいつも瑛一まで連れてくるの」
今日はツアーの打ち上げで夜は遅くなる、というのは瑛二から聞いていた。そう、だから一応眠らずに待っているようにしたのだ。
案の定、すっかり酔っ払った様子の瑛二は綺羅に、おまけに瑛一は大和に担がれて私の部屋までやって来た。
「瑛二、まだ成人したばかりなんだから…あんまり飲ませないでって言ったでしょー?」
「すまない…」
「まぁどうせ綺羅のせいではないと思うけどさ…よいしょ」
意識を失っているのか、ぐったりした様子の瑛二を綺羅から預かる。力が何にも入ってなくてずっしり重たくて思わず後ろによろけて倒れそうになった。
「ベッドまで、運ぶか…?」
「ごめん、お願いしていい?」
「了解」
「おーい!瑛一はー?」
「玄関に放置でOK。ていうかいつもウチに連れてくるのやめてよ」
「仕方ねぇだろ、その方が楽なんだよ」
一度預かった瑛二の身体を、再び綺羅に戻した。綺羅が家に上がり寝室に運んでくれるのを見守る。
ちなみにここは私と瑛二が二人で住んでいる部屋。年中瑛一が入り浸っているのをメンバーも知ってか、酔っ払った時は瑛二のついでに家に連れてくるのが定番だった。まったく、本当に良い迷惑だわ!
綺羅と大和に、酔い覚め用にペットボトルの水を二本渡してから二人が部屋を出るのを見送って、鍵を閉めた。
玄関で爆睡する瑛一を放置して(酷いという意見は今更聞き入れない事にした)、寝室で横になる瑛二の元へ向かう。
「瑛二ー?大丈夫?」
「ん、だいじょぶ…」
あんまり大丈夫そうじゃないな…。
意識朦朧としているみたい。
水を飲ませようと口元にペットボトルの口を近付けるけど、いやいやと首を横に振られてしまった。
「ふふ、犬みたい」
お酒臭いのだけ除けば、可愛いのにな。
そう思って瑛二の茶色いサラサラの髪を撫でていると、瑛二は横になったまま、私の腰に抱き着いてきた。
「え、瑛二?」
「……」
「ちょ、瑛二…」
「なんだよみんなして…なまえの事可愛い可愛いって褒めてさ」
「は?」
「なまえは、俺の彼女なのに」
え、ちょ…瑛二の様子がおかしい。
私のお腹に顔をうずめる瑛二は、そのままぽつり、と言葉を続けていく。
「可愛いのは知ってるし…ベッドの上とかだとさ、もっと可愛いのも知ってるもん」
「な、いつもそんな話してるの!?やめてよ!プライバシーの侵害!」
「大体兄さんもさ、なんでいつも部屋に来るんだよ…邪魔しないで欲しいなぁ…」
うん。それは常日頃私も思っている事だけれども!
でも、
「(瑛二までそう思っていたのは意外)」
だって瑛一とやたら仲良いし、いつも楽しそうに二人で仕事の話ばかりしてるし。むしろ私が嫉妬しちゃうくらいだったのに。
「なまえは俺のもの、なんだよ」
「瑛二、」
「とっても、大切…なんだから」
いつもニコニコして周りに合わせて、あまり自分の気持ちを出さない瑛二だから、こんな風に話すのが珍しくて本当に驚く。
いつも、我慢してたのかな。
これが瑛二の本音なのかな。
少しだけ驚いたけど、でもそれはそれで、
「嬉しいよ、瑛二」
ありがとう、の気持ちを込めて、また頭を撫でた。そのうち瑛二から寝息が聞こえてきて、ずっと寝るのを我慢していた私も釣られて、そのまま目を瞑った。
──
「……なんっにも覚えてない」
「まぁ、相当酔ってたよね」
「ああああごめん!迷惑かけちゃったよね?」
「それは大丈夫だけど、」
「ね、俺…なんか変なことしてなかった?」
翌朝、案の定瑛二は昨夜の記憶がすっぽり抜けてしまっていた。髪はボサボサで顔も浮腫んでいる。まったく、こんな姿見たらファンの皆はガッカリするのではないだろうか。なんて思いつつ、こんな姿の瑛二を見られるのは自分だけの特権だと思ったらそれはそれで嬉しい気持ちになるから不思議だ。
「…うん、何も無かったよ」
アルコールの力恐るべし。
でも瑛二の普段聞けない本音が聞けたから、まぁ良いか。
だから昨日の瑛二の言葉は、私だけの秘密にしておこう。
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