待っていてくれた人

「…はずい」


ST☆RISHのアルバムに収録された、トキヤのソロ曲。私がプロの作曲家として、初めて収録される事になったその曲に、トキヤが歌詞を付けてくれた。


「歌詞、楽しみにしててくださいね」

なんて言われたから、事前に歌詞を読まないで完成された音源で初めて確認した…ら、
それがあまりに一途なラブソングだったものだから、恥ずかしくてものすごく動揺してしまった。


私に向けてという、解釈で良いんだよね…?た、たぶん。自惚れ過ぎかなぁ、なんて。


イヤホンから流れるトキヤの歌声が心地良い。学生時代から何度も聞いているはずなのに、こんなにも心に染みるのだから、やっぱりトキヤの歌は私にとって特別なんだ──そう思わずにはいられなかった。




「…トキヤ、」
「何ですか?」


音楽を聴きながら、目を瞑って大好きな彼の名前を呼ぶ。まさか返事が来ると思わなかった私の独り言に、優しく反応してくれたのはトキヤ本人だった。


慌てて目を開けると、トキヤの綺麗な顔が間近にあって、飛び上がってしまいそうなくらい驚いた。




「と、ととトキヤ!なんで!」
「ここは寮の談話室ですからね。私が来てもおかしくないでしょう」
「そ、そうだけど…!びっくりさせないでよもー」


すみません、と本当に悪く思ってるのか分からないくらい楽しそうに笑ったトキヤは、ゆっくりと私の横に腰掛けた。


私がしていたイヤホンを片方外して、自分の耳に近付けたトキヤは、「また聞いているんですか」と、少しだけ恥ずかしそうな顔を見せた。


「いやぁ…良い曲だなぁって思って」

返されたイヤホン受け取って、プレイヤーの停止ボタンを押す。私の言葉を聞いたトキヤは、またふっと笑った。


「あなたが作った曲でしょう」
「うん、でもトキヤが歌詞付けてくれたでしょ?それがなんかもう、嬉しくって」
「それで何度も聞いていたんですか」
「うん、ついね」


私がトキヤの為に書いて、トキヤが私の為に歌ってくれた曲。早乙女学園時代からの夢がようやく叶ったんだ。昔からずっと好きだった人に歌ってもらえる事が、こんなに嬉しいだなんて。

作曲の仕事、やっていて良かったなって改めて思う。挫折しそうになったことも沢山あったけれど、それをこうして乗り越えることが出来たのは横に座るトキヤのおかげだ。



「トキヤ」
「はい」
「ありがとう。私、トキヤのおかげで作曲家でいられるよ」
「何を言いますか。感謝したいのは私の方ですよ…素敵な曲を、ありがとうございます」


そんな言葉に感動で泣きそうになっていると、トキヤはまた王子様みたいに優しく微笑んで、私の頬をそっと撫でた。


「…ときや、」
「なまえ、好きですよ」
「うぇ、今言うの…?」
「いつでも言いますよ。出来ればなまえからも聞きたいものですね」
「うぅ」


恥ずかしくてぎゅっとつむっていた唇を、少し緩める。ほっぺた、熱い。
勇気を出して、目の前のトキヤを見つめて言葉を紡いだ。



「…すき」
「なまえ」
「トキヤが、好き…」


すぐに優しくトキヤの唇が私の唇に触れた。
恋愛禁止な学生時代から、ずっと好きだった人。


昔はただのパートナーとして振舞っていたけど、私は昔からトキヤしか見ていなくて、いつかこの想いを伝えたらなって思ってた。

それが今、こうして触れ合えている。どうしようもなく、幸せ。



「んっ、」


ゆっくりと味わうように、何度も重なる唇。

行き場がなく膝の上で握った手にも、トキヤの手が重なった。キスを繰り返しながら、そっと指を絡めて、きゅ、と握った。






「…ごほん!」


すぐ近くから聞こえた声に、閉じていた目を開けて、今度こそ本当に飛び上がった。


振り返ると自分の髪をガシガシと掻く翔ちゃんと、ニヤニヤと笑うレンの姿があった。




「ふあああぁぁ!」
「…いつから居たのですか」
「…ったく!お前らイチャつくのは良いけど場所を考えろよな…!」
「人前で、だなんて関心しないなぁイッチー」



そんな二人を見て顔がかぁっと赤くなる。
学生時代からの友人にこんな所見られるなんて…!恥ずかしすぎる!穴があったら入りたい!


「まぁ、お前らが学生の頃から両想いなのはバレバレだったけどよ」
「良かったね、二人とも」
「しかもバレてた!?嘘でしょ!」
「なまえ、お前に至っては分かりやす過ぎてクラス全員にバレてたぞ」
「がぁぁん!」


そ、そんなカルチャーショック!
あ、使い方違うか?って、そうじゃなくて!
ううう、と頭を抱えていると片方の手をトキヤにそっと引かれた。


「トキヤ?」
「大変失礼致しました。では人目のつかない場所でイチャつくことにします」
「おーおーおー是非そうしてくれ!」
「えっ…ちょ、トキ、」
「なまえ、私の部屋に行きましょう」
「いや、だめだよ!私勝手に入っちゃ、」
「どうぞごゆっくり〜」
「ごゆっくり、じゃなくて!寿さんと音也くんは!」
「寿さんは仕事です、音也は知りません。ほら、行きますよ」



ちょっぴり強引に繋がれたトキヤの手。でも絡め取られた指は優しくて、私は堪らなく幸せを感じてしまうんだ。



「…たく、くっつくのに時間かかりすぎなんだよアイツら」
「本当にね」
「あ!翔にレンー!トキヤ見なかった?ちょっと用事あるんだけど」
「…音也。お前今絶対部屋戻るなよ」
「え?なんで?」
「良いから戻るな!そして夜は出来れば俺の部屋に泊まれ!」
「なんでなんでなんで!ていうかトキヤは!?」



私を信じて、私の曲を待っていてくれてありがとう。
大好きだよ、トキヤ。



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