真なる言霊は最愛を誓う
「…なまえ?」
「真斗く…」
たまたま通りかかった事務所近くの公園。
そこのベンチに腰かけて俯くなまえの姿を見つけ近寄ってみると、ぽろぽろと涙を流すなまえと目が合った。
「何かあったか」
「……なんでもないよ」
十中八九嘘だと思われる返答。
何もない奴がそんな顔をしているはずはない。
いつも明るいなまえなら尚更。
そんななまえを放って帰る気にはなれず、横にそっと腰かける。
しばらくの沈黙の後、なまえが口を開いた。
「笑わない?」
「あぁ」
「失恋した、振られちゃったんだ」
たったそれだけか、とは思わなかった。
何故なら俺も失恋した経験があるからだ。それも、目の前の彼女に。
なまえに以前から交際している恋人がいるのは知っていた。仲良さそうに腕を組んで歩く姿も見たことがある。その相手に、何度嫉妬したことか。
「向こうはね、遊びだったんだって私のこと。他に本命の彼女がいてさ…」
「…そうか」
「浮気がバレたから別れるって…ひどい話だよね」
「あぁ」
「顔が好みだったから付き合っていただけだって言われちゃった。私のこと、ちっとも好きじゃなかったって」
なんて酷い輩だ。一発殴ってやりたい。なまえの隣を独占しておいて何故そのようなことが言えるのだろうか。
あぁ、俺ならお前にそんな顔をさせないのに。
「もう良いんだ、あんな奴…元々大嫌いだったもん」
必死に笑うなまえの目から、涙が止まることはなかった。目も真っ赤に腫れている。ずっと長い時間泣いていたのだろう。
そんな顔をするな。
放っておけなくなる。
たまらず俺は、なまえを抱き寄せた。
なまえの顔がわざと見えないように、俺の肩口になまえの顔を押し付ける。
「そんな事言うな。本当に好きだったんだろう」
「うっ…ふっ、えっ…」
「今は泣け。俺は何も見ていないから」
震えるなまえの頭を優しく抱く。
そのまま随分長い時間、なまえは泣き続けていた。
しばらくして落ち着いたのか、そっと俺から身体を離した。
「ごめ、シャツ濡れちゃったかも」
「いや、構わない」
「ありがとう…真斗くんは優しいね」
「俺は優しくなどない。現にこの状況を喜んでいるのだからな」
「え…どういうこと?」
目を丸くして俺を見つめるなまえの涙はすでに止まっているようだ。
ここで言うのはずるいかもしれない。だがそれでもなまえに、俺の心からの言霊を伝えたいと思った。
「好きだなまえ。ずっと前から好きだった」
「え、うそ…でしょ、」
「俺は偽りの言葉など使わない。自信を持ってお前だけが好きだと言える」
「ちょ、待って…頭、混乱して…」
「返事はいつでも構わない、ずっと待っている。少しだけ、考えてみてくれないか」
「真斗くん…」
驚いて瞬きを繰り返すなまえの頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づける。
キスされると思ったのか、強く目を瞑ったなまえの瞼に、そっと唇を落とした。
果たして俺は、お前だけの騎士になれるだろうか。
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