25歳、将来の約束

「「記念日おめでとう」」


トキヤとやって来たお洒落なホテルディナー。
スパークリングワインのグラスで乾杯して、すぐに喉に流し込む。

トキヤと出会ってから9年が経った。
学生時代から色々なことがあったけど、こうして出逢えて本当に良かったと、今、心から思える。

当時16歳だった私達は、いつの間にか25歳になった。


「もう四捨五入すると30だね」
「ふふ、そうですね」
「あの頃はこうしてトキヤとお酒を飲むなんて考えられなかったな」


まだ制服を着ていたあの頃。
子どもながらも必死に、ただガムシャラに夢を追いかけていた当時が懐かしい。


大人になってからは上手く手を抜くことも覚えた。何でもかんでも、全力で取り組むことが正解ではないことも理解した。昔の一生懸命でひたむきな気持ちを、最近忘れてしまいつつある。


「それでもトキヤはすごいよね」
「何がです?」
「努力すること、大人になっても忘れないんだもん。昔から変わらないよね」

プロのアイドルになっても、トキヤは学生時代から何も変わらない。授業を音也とサボってばかりいた私とは大違いだった。
真面目で、ストイックで、誰よりも努力家で。
そんなトキヤが私は昔から、そして今も大好きなままだ。



「なまえも昔から変わらないですよ」
「そ、そう?」
「いつも真っ直ぐで、周りに気遣いが出来て、誰からも好かれる」
「ちょ、急に褒められると照れちゃう」
「先に褒めたのはなまえですよ」

ナイフとフォークを使って食事をする姿も、すっかり様になっている。元々大人っぽい容姿の彼は、ここ最近さらに色気も出てきてますます素敵になってしまった。入学当初のツンツンした雰囲気もすっかり抜けて、穏やかで落ち着いた大人の男性になった。


「ん!お肉美味しい」
「良かったです。なまえに喜んでもらえて」
「…高かったでしょ」
「いえ」

大人になるってどういうことなんだろうって、昔は不安に思っていたけど。実際はそんなに変わらなかった。

こうして変わらず、トキヤと一緒に居られることが何よりの証拠だし、それが一番幸せ。



「そう言えば春ちゃん、結婚するって」
「…そうなんですか」

それでも変化は訪れる。こうして友人が結婚したり遠くに行ってしまったり。
それがなんとなく寂しいけれど、仕方のないことなのかなぁ、とも、思う。

トキヤは私とのこれからをどう考えているんだろう。
トキヤが描く未来に、私は映っているのだろうか。




「なまえ」
「ん?なに?」
「私もあなたとの将来を考えていない訳ではありません」


フォークを持つ手を止めて、トキヤは真っ直ぐに私を見つめる。その真剣な瞳に緊張するけど、私も負けじと見つめ返した。


「もちろん一緒になりたいと思っていますし、幸せな家庭を築いていけたらと考えています。私の妻になるのはあなたしかありえませんから」
「…それ、プロポーズ?」
「いえ。それはまた、ちゃんと改めて」


…びっくりした。でもトキヤが私との未来のことをちゃんと考えてくれている。
どうしよう、すごく嬉しい。


「互いにアイドルである以上、私の一存で決められない部分があります。今、社長とも相談…していますので」
「トキヤ、」
「今は口約束だけですみません。でも、」



この先も、私と共に歩んでくれますか。



そう微笑むトキヤの手を取らない選択肢なんて、私には昔からずっとないから。

「私で良ければ、喜んで」



同じ場所でトキヤが私の左手に指輪をつけてくれるのは、

少し先の、また別のお話。




───

20190624
happy 9th Anniversary!



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