お泊まり!




「(身体、おもい)」


夏の夜の蒸し暑さと身体の気だるさで、変な時間に目が覚めた。ちらりと視線を横に移すと、至近距離に寝息を立てて眠っている那月くんの顔がある。こっそりスマホを点灯させて時刻だけ確認すると、まだ夜中の2時。そりゃ、那月くんはぐっすりと眠っている訳だ。

寝起きの頭で思い起こすのは、昨日の夜のこと。


…あの那月くんと、致してしまった。
恋人関係なのだから何らおかしくは無い…はず。けれど私にとっては一大事件だ、あんな男らしい那月くんを初めて見てしまったのだから。
まだ、心臓がうるさいくらいドキドキしている。


「…ふふ」

昨夜とは一転した、那月くんの可愛らしい寝顔を暫し堪能した私は、那月くんの眼鏡に手を伸ばした。寝る時にも外さないなんて、本当変わってる。中々見せてくれないんだよなぁ、眼鏡外した顔。…いや?もしかしたら今まで一度たりとも見た事がなかったかもしれない。


「…ん、」

縁に指を引っ掛けた瞬間、那月くんが唸ったのを見て咄嗟に手を引っ込めた。気持ち良さそうに寝ているのを起こしてしまうのは気が引けて、私は眼鏡を外すことを断念した。本当は、ちょっと見たかったけど…ね、残念。


那月くんを起こさないようにそっとベッドから抜け出し、脱ぎ捨ててあった洋服を着た。外は冷えるかな、と思い荷物の中からカーディガンを一枚だして肩から羽織り、私はテントを出る。




「うわ…綺麗…!」


さっきよりも更に真っ黒になった空には、数え切れないくらいの星達が瞬いていた。
美しくて、幻想的な世界。思わず息を呑んでしまうくらい見惚れてしまった。


芝生に体育座りをして、私は空を見上げた。こんな綺麗な空、今まで見た事がない。ここに来れて、那月くんが誘ってくれて本当に良かった。



「(那月くんと、見たいな)」
「わあ!綺麗ですね!」
「え!」


私が一方的に思いを馳せていた那月くんが、突然隣に現れて驚く。洋服を着た那月くんは、私に微笑みかけながら隣にそっと腰を下ろした。
敷地内にテントはいくつも設置されているけどさすがに真夜中のこの時間、私達の他に外に出ている人は居なかった。


「ごめん、起こしちゃった?」
「いえ、自然に目が覚めてしまったんです」
「そ、そっか」


昨日のこともあって、私は上手く那月くんの目が見れずにいた。だ、だって恥ずかしいもん。色々、その…思い出しちゃう。

隣にいる温もりが分かるだけでも緊張してしまう。平然を装うために、ただ空の星達を目で追った。



「那月くん?」


そろそろ首が凝ってしまう、という頃に私の肩に何かがこつんと当たった。何だろうと思い視線を移すと、視界いっぱいにふわふわの金色の髪が広がった。


「目が覚めたら、隣に旅子ちゃんが居なくてびっくりしました」
「ご、ごめん?」
「寂しかったです。勝手にどこか行かないで下さい…」


まるでしゅんと耳を垂らした子犬のよう。那月くんの体格だったら子犬というより大型犬か。その様子は本当に悲しそうで、起こさないように配慮したとはいえ勝手に離れてしまった罪悪感に苛まれる。


那月くんは、意外と寂しがり屋なんだな。
またひとつ、新たな一面を知ってしまった。


「ごめんなさい、心細かったね」

那月くんの頭に手を回して、よしよしと髪の毛を手のひらで撫でた。昨日も触れたはずのその髪は、毛質が柔らかくて気持ち良い。本当にわんちゃんみたい。


顔を上げた那月くんは、安心したようにいつもの笑顔を見せてくれた。コロコロと変わるその表情に、私は振り回されっぱなしだ。



「(可愛いし格好良いとか…ずるいと思うんですけど)」


結局私達は、星が落ちて朝日が昇るまでずっとそのままでいた。眠たいはずなのに、那月くんと一緒だから眠気も吹っ飛んでしまった。太陽が上がって私達の身体を熱く照り出した頃、「また来ましょうね」と那月くんが差し出した小指に、頷いて自分の小指を絡めた。






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