お泊まり!




「…っ、あ゛ー…さいあく…」

割れるようにガンガンと鳴る頭、身体全体の気だるさと気持ち悪さ。目が覚めてすぐに自分がやらかしてしまったことを察した。こんなにお酒に呑まれるのなんて久しぶりだ。気を付けていたのに楽しくて調子に乗ってしまった…もー…。


ぼんやりする頭の中で目線が最初に捉えたのは、馴染みのある天井と照明器具。ここは私の部屋のようだ。だけど昨夜どうやって家に帰ってきたのか、まっったく記憶に無い。誰かが送ってくれたんだっけ?んー、よく思い出せない。

ま、いっか…ちゃんと家に居るし。そう思ってごく自然に左向きに寝返りを打った。その瞬間、私の視界を埋めつくした存在に、ぎょっとする。


バッと急いで起き上がってもう一度確認をした。見間違いなんかじゃない…そこにいたのは、まさかの翔ちゃんだった。寝息を立てて、何故か、何故か…今まさに私の横で眠っている。



「…き、」


意識が、一気に覚醒したのが分かった。


「きゃあぁぁーーっ!!」
「うおっ!?なんだ!?」


近所迷惑と思われる私の叫び声に、翔ちゃんは勢いよく飛び上がった。私は無意識に枕を胸の前に抱えて身体を隠す。辛うじて服は昨日のままのようだ、だけど!

二日酔いの気持ち悪さなんて一気に忘れてしまうくらいの衝撃。一体どういう状況!?どうして翔ちゃんが私の家にいるの!?何がどうしてこうなったのよー!


「翔ちゃん!ど、どうしてここに!?」
「あー…まぁ色々…て、覚えてねぇのかよ」
「覚えてない!なんっっにも覚えてない!!」

ブンブンと首を横に振ると、翔ちゃんは「まぁ、あれだけ酔ってたらな…」と呆れ顔で言った。

聞いたところまぁ大方予想通り私が飲みすぎて潰れ、翔ちゃんが家まで送ってくれた上に、ベッドまで運んでくれたらしい。翔ちゃんの様子からすると、私は相当翔ちゃんに迷惑をかけた…ようで、ある。何も覚えてないけど!けど、


朝までベッドの上で共に寝ていた…という事は、である。

これは、ヤッてしまった、流れ…!?



「うわあああん!!!」
「何だよ!今度はどうした!」
「だって、だって…!初めてのキスは観覧車の中が良かったし、初めてのエッチは夜景の見えるホテルでって決めてたのにー!」
「か、勝手に決めんなよ!ていうか、そこまではしてねぇから!」

両手で顔を覆って思いの丈を叫んだ私は、翔ちゃんの言葉を聞いて一瞬固まった。恐る恐る指の間から瞳を覗かせて翔ちゃんの顔を見る。してない?翔ちゃん、今してないって言った?


「ほんと?何もしてない?一緒に寝ただけ?」
「んと…キスは、した」
「何もしてなくないじゃん!うわぁぁん!」
「いや!違っ…違くねぇけど…元々誘ったのはお前だからな!?」


翔ちゃんの衝撃の告白にまたもやぽかんと固まる私。なんと驚くことにこの私の方から酔った勢いで誘ってしまったらしい、しかも誘い方が相当破廉恥だったとか、違うとか。そこまで話を聞いてかぁっと顔が赤くなったのが分かった。そして私はベッドの上で正座し、翔ちゃんに頭を下げる。あーだこーだ散々文句言っておいて自分が元凶だなんて…恥ずかしいことこの上ない。


「申し訳ございませんでした」
「いや謝らなくても良いし、最終的に我慢出来なかったのは…俺だし」

何故かベッドの上で正座で向き合う私達。はたから見たら異様な光景だ。私が顔を上げると、翔ちゃんは頬を指で掻きながら少し照れ臭そうに目線を逸らした。


「そのさ…昨日の事は一旦忘れて…っていうのもおかしいけど。ちゃんと、するからさ」
「ちゃんと?」
「観覧車とか、夜景の見えるホテルとか…旅子がしたいこと、全部ちゃんとやろう」
「翔ちゃん…」


こんなこといったら怒られちゃうけど、今私の目の前にいる翔ちゃんはすごく可愛い。愛おしくて、胸がきゅぅってなる。優しくって可愛くって、だけど結局は格好良くって…大好きな私の王子様。


気持ちを抑え切れず、翔ちゃんに正面から抱き着いてその胸板に顔を擦り寄せた。「シャワー浴びてねぇから!」って焦っているけど、そんなの気にしないもん。やっぱり私は翔ちゃんが大好きでたまらないみたいだ。




「ところで翔ちゃん」
「ん?」
「今、何時?」

その体勢のまま、ふと冷静になり気になるのは今日のこと。外はかなり明るい。日が昇って時間も経過している…はずだ。私を抱き締めたまま、翔ちゃんは手を伸ばして自分のスマホを手に取った。そしてその顔がみるみるうちに青ざめていく。


「7時半…」
「…うそだぁ」
「…あーっ!やべっ!今日朝イチで仕事じゃん!」
「しかも同じ現場だよね!?早く支度しなくちゃ!」


さっきまでの甘い雰囲気からは一転、ベッドから飛び降りて大慌て。どうしよう、とりあえずシャワー浴びて着替えて歯磨きして、朝ごはん…は食べる時間はなさそう。
 

「翔ちゃん、1回お家帰る?」
「あー…いや、そんな時間はねぇかな。このまま行くよ」
「う、うん!シャワー浴びていって!あ…でも昨日と同じ服で行ったら、皆にからかわれるかな…」
「た、確かに…」


朝帰り、なんてメンバーの皆に知られたら大騒ぎだ。きっとトキヤ君や真斗君にはお説教をされるし、音也君やレン君には面白がられる…!だけど家に帰る時間も、悩んでいる時間も今の私達にはない。



「急ぐぞ!」
「うん!」


後のことは後で考えよう、二人でそう話してから最低限の支度だけをして、私と翔ちゃんはマンションから飛び出した。二日酔いで思うように足が動かず走れない私の手を、翔ちゃんは力強く引っ張ってくれる。この手をずっと離したくない、そう願いを込めて手を握る。二人で笑い合いながら走っていく私達を、熱い太陽が照らしていた。






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