ホットサマー・ジェラシー

夏は好きだけど海は少し苦手だ。だから昔から海よりもプール派だった。


「夏になったら、ナイトプールへ行きませんか?」

だから那月くんがそう誘ってくれたのが嬉しくてすぐさま首を縦に振った。この日の為に水着を新調して、夏に向けてダイエットも頑張って。その日が来るのを心待ちにしていた。



そして気温もグッと上がり、ついに夏を迎えた。日中のうだるような暑さも少しはマシになった夜──待ちに待ったその日だったはずなのに、私は今ものすごく動揺してしまっている。


「なまえちゃん!こっちです」
「(う、うわぁ)」


ただでさえ芸能人なのに、目立つような行動は控えて欲しい…という言葉は胸にそっと仕舞って、両手をブンブンと振る那月くんの元へ駆け寄った。幸い、周囲のざわめきと暗闇が全てを掻き消してくれて彼の存在がバレてしまうことはなかった。

それに加えて、だ。


「なまえちゃん、水着とっても可愛いですね!よくお似合いです」
「う、うん!ありがとう。その、那月くんも」


グラビアでは見たことのある那月くんの素肌が、今、私の目の前に晒されてしまっている…!元々がっしりとした体格なのにちゃんと腹筋や胸元は締まっていて…つい【男の人】を意識しちゃうのだ。

恥ずかしくて、上手く那月くんの顔を見ることも出来ずに私は、持参した浮き輪を抱き締めて俯いた。すると、ぱっと右手を取られて足が自然と前に進む。


「な、那月くん…」
「こっち、ライトアップされていて綺麗ですよ。早く行こ?」


握られた手が嬉しくて自然と笑みが零れる。大きくていつも包み込んでくれる那月くんの手だ。


「…うん」

こうして手を繋ぐと、那月くんはちゃんと私の彼氏なんだって実感出来て、心から安心する。




そのままプールに辿り着き、私は浮き輪にお尻を沈めてぷかぷかと水面に浮く。それに那月くんが掴まって、二人で水の流れに身を任せた。


「昼間のプールとは違って、すごく新鮮!」
「うん、来て良かったですねぇ」


夜の闇の中、ライトがプールの水に反射してキラキラしていて…予想以上に幻想的で素敵な光景だ。昼間のざわめきも少なく、夜風も気持ちが良い。本当に来て良かった。

私を見上げて、那月くんもにっこりと笑った。彼の髪に付着した水や、私達を照らす光が…いつもに増してその魅力を引き出している。やっぱり那月くんはとっても格好良い。加えて、今日は更に色っぽい。



「そろそろ水分補給をしましょう。僕、何か買ってきますね」
「あ、私も行くよ」
「大丈夫です。なまえちゃんはここで待ってて」


すぐに戻りますね、と私を安心させるように話した那月くんは、プールから上がって暗闇の中へ消えていく。プールサイドにはお洒落なお店もたくさんあって、ジュースやカクテルが売られていて…きっとそれを買って本当にすぐに戻ってきてくれると思っていたのだ。



「…遅い」

しかし何分待っても那月くんは帰って来なかった。さすがに何かあったのではと心配になってきた私は、プールから上がり那月くんを探しに行くことにした。


足元に滴る水のせいで、ぺたぺたと鳴る素足。それを速めに動かしながら辺り見渡すと、見慣れた後ろ姿をようやく確認した。





「那月く──」
「もしかして撮影ですかー?」
「まさかなっちゃんに会えるなんて!超ラッキー!」


突如、女の子の高い声が聞こえて私はその場に立ち止まった。逃げるようにサッと壁に隠れてそっと顔だけを覗かせる。先程は見えなかったけど、どうやら那月くんは女の子二人組に捕まっていたようだ。そっか、だから遅かったんだ。



「ごめんなさい、プライベートなんです。これ以上は…」
「えっ!プライベートなの?誰と来たの?翔ちゃんとか?」
「せっかくだから写真と握手お願い!あ、あとサインも!」
「うーん…では、写真だけは遠慮して頂けますか?」

プライベートなんです、ともう一度念を押した那月くんを見て、壁についた指先に力が入った。


…分かってる、ファンサービスだってことは。それに彼はとても優しいから、彼女達のことを無下には出来ないんだろう。

分かってる、分かってるけど…。



「それにしても、本当に良い腹筋してるー!」


すると一人の女の子の手が、那月くんの腹部に伸びた。いてもたってもいられなくなった私はその場から飛び出して…


気が付けば那月くんを庇うように、彼女と那月くんの間に腕を伸ばしていた。




「さ、触らないでっ…!」


自分ががしっと力強く女の子の腕を掴んでいることに気付いて慌てて顔を上げる。案の定、その子は怪訝な顔で私を睨みつけていて。


「……は?誰アンタ」

凄みを増していく彼女の視線に耐えきれず、慌てて腕を離した。何故自分がこんなことをしたかも分からずに、心臓の音が速さを増す。汗ばんだ手を隠して、那月くんの顔を見ることも出来ずに私は大きく頭を下げた。


「ご、ごめんなさい!何でもありません!!失礼します!!」


重い空気に耐えられず、急ぎ足でその場を去った。彼女達からだいぶ距離は取れたはずなのに、しばらく走り続けた。

滑りやすい足元には最新の注意を払っていた。それなのに走ることにいっぱいいっぱいで、プールサイドでつるんと足を滑らせる。そのまま私は床に膝をぶつけて転倒してしまった。


「私のバカ…いくらなんでも、あれは気持ち悪いよ」


その場にへたりと座り込んで俯く私を気にする人は、ここには誰もいないだろう。本当、かっこ悪い。

でも嫌だった。他の女の子が那月くんに触れるのが、たまらなく嫌だった。


那月くんは私の彼氏なんだよって、声を大にして言いたかった。だけどそれは出来ない。那月くんの迷惑には、なりたくないから。







「立てますか?」
「……那月くん」
「ごめんなさい、遅かったから探しに来てくれたんですよね」


座り込む私に視線を合わせるようにしゃがんだのは、那月くんだった。差し伸べてくれた手を握って立ち上がるけど、上手く顔を上げることが出来ない。

俯いたままの私を連れて、那月くんはプールから外れた場所に移動した。近くに更衣室があるけれど死角になっていて周りからは見られない。



「……ごめんなさい」

先に言葉を発したのは私だった。
自分が情けなくて恥ずかしくて仕方がない。こんな私が彼女だなんて、那月くんもきっと嫌だろう。


「どうして謝るのですか?」
「だって、那月くんはただファンサービスをしていただけなのに…あんなの」


ぎゅっと拳を握っていると、那月くんがゆっくり私に近づいた。そのまま追い込まれるように、トンと壁に背中がつく。握っていた拳に気付かれて、那月くんの手が強ばっていた指を優しく解いて。


顔を上げると視界が暗くなって那月くんの唇が私のそれに落ちた。暗闇の中……そっと繰り返されるキスに心がだんだんと解れた。那月くんは優しい、いつだって私をこうして安心させてくれる。


だけどそのキスは、だんだん優しいものじゃなくなってゆく。強く押し付けられ、思わず開いた口の中に那月くんの舌が入って。なぞられる感覚にぞくぞくっと背中が震える。



「(ここ、外なのにっ…)」

抵抗しようとした右手も掴まれて、トンと手の甲が壁についた。さすがに息が苦しくなって眉間に皺を寄せると、それに気付いた那月くんがやっと唇を離してくれる。


「な、つきく…」
「嫉妬してくれたの?嬉しいなぁ」


私の背中に那月くんの両腕が回って、ぎゅって抱き締められた。触れ合う素肌と素肌…濡れた身体越しに那月くんの体温を感じる。

私の身体に顎を乗せているから、那月くんの表情は分からない。だけど声色はひどく楽しそうだ。


「……ぁっ」

首の後ろで結んでいた水着の紐を、那月くんが噛んで引いたせいで、はらりとビキニが落ちた。咄嗟に両手で隠そうとした手は、またもや那月くんに拘束されてしまう。


露になった胸の谷間に那月くんの唇が落ちる。赤く尖った突起に舌がわずかに触れて、さすがにこれはまずいと思った。


「那月くっ…だめ、するなら部屋に戻って…」
「どうして?こんなに喜んでるのに」
「あっ、ん…」


私に話しかけたままなのに、那月くんが動きを止めてくれることはない。ぬるぬるとした触感と胸元に感じる息遣い。ダメだと頭では分かっているのに下腹部がきゅんっと締まるのが分かって…ただ与えられる刺激に、両足に力を入れて踏ん張るしかなかった。



「ねぇ、それでさー」
「えー!?それほんと!?」
「……!」

那月くんが水着の間から私の秘部に触れたのと同時に、近くから女の子の声が聞こえ、咄嗟に両手で口を抑えた。更衣室がすぐ近くにあるから、そこへ向かっているのだろう。多分さっきの女の子とは別人だと思う。だけど今はそれは問題じゃないっ…!


「声、我慢しちゃうの勿体ないです」

ちゃんと聞かせて?と甘い声で囁きながらも、指の動きは全く優しくない。くちゅくちゅっと奥まで弄られて快感が徐々に高まる。私が必死に首をふるふると振ると、那月くんは少し残念そうな顔をして指を抜いた。彼女達の会話は、まだ近くに聞こえる。


達するぎりぎり直前に刺激が離れたのが切ない。だけど仕方ない、と諦めかけていたところに──下部に当てられたのは、水着の間から取り出された那月くん自身で。


驚いて腰を引こうにも、背後は壁だから逃げられない。しーっと人差し指を唇に当てた那月くんが、私の片足を抱え上げながら、いきり立ったソレを勢い良く私の中に挿入した。



「…ふっ」

こんな状態で声を抑えるなんて無理っ…!手のひらを噛む勢いで強く抑えていると、腰の動きを止めない那月くんの手が私の後頭部に回った。そっと引き寄せられて、目の前の逞しい胸板に、私の唇が当たる。



「うん…我慢出来てお利口さんですね」
「んっ…!」
「えらいえらい」


さっきは我慢しないでって言ったくせに、今の那月くんはちょっと勝手だ。それに声が漏れない方がマシだとはいえ、胸板に顔を押し付けられるのは息が苦しい。


だけどこんな快感の最中、愛おしそうに頭を撫でてくる那月くんが、好きで好きでたまらなくなって。



しばらくすると彼女達の声が遠ざかっていくのが分かった。それに気付いた那月くんの動きも更に激しくなる。

それに応えるよう那月くんの腰に両腕を回してしがみついた。手のひらを滑らせてそれは彼の背中へと届く。これが私の那月くんなんだって、確かめるようにひたすらに手に力を入れた。



「んっ、あ…!ぁっ、やぁっ…だめっ那月く…いっちゃ…!」
「良いよ、なまえちゃん。もっとちゃんと触れて?」


ナイトプールのライトが、背後から那月くんの色っぽい笑顔を照らした。それがより一層ドキドキと興奮を高めている気がして……この景色は夏が終わっても、ううん、ずっと忘れられないんだろうなと思った。



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