Jealousy Jealousy

女優として本格的にデビューしてから数年が経った。ありがたいことに沢山の作品に恵まれて、それなりにキャリアを積んでいる。

そして成人して歳も重ねていくと、それなりのシーンに出くわす機会はあるもので。



「…ねぇ」
「……」
「ねぇ、レン。この体勢は何?」


ソファの前に置かれた75インチの大きなテレビはレンが購入したもの。そこに流れているのは私が絶賛出演中の、続き物の恋愛ドラマだ。
…否、点いていたのはつい先程まで。今は彼の手によってスイッチを切られてしまい、画面は真っ暗だ。

そして私は…ふわふわの大きなソファに、押し倒されているところで、ある。



「何、あれ」


いつも優しい彼が怒ることは滅多に無い。レンほど、怒りの沸点が高い人を私は知らない。
だけど今、私を見下ろすその顔は確実に怒りを含んでいて…声色も、いつもとは違った。

レンがこんなにも怒っている理由にも、一応心当たりはある。多分、今一緒に見ていた恋愛ドラマが原因だろう。


「とても嬉しいことに、私が主演しているドラマで…ございます」
「知ってる。オレが聞きたいのはどうして相手が聖川なのってこと」
「それは私は知らないよ…オファーがあったんでしょう」


あまりの視線の鋭さに、首を傾けて顔ごと逸らした。なのにレンは頬に手を添えて「ちゃんとこっち見て」と無理矢理目を合わせてきた。そう言うなら、そんな冷たい目をしなくても良いのに…!

多分、普通のドラマならこうはならなかった。これまでもお互いに恋愛ものには出演しているし、そういう仕事に理解はある。


今回はちょっと事情が違った。
内容がやや大人向けという事もあり…【そういうシーン】があった訳なのです。

俗に言う、ラブシーンというやつです。しかも、結構濃厚な。
その上、その相手があの聖川真斗君だったのが、レンは大層気に入らなかったご様子である。


手首を握る力が強い。レンは普段大人ぶっている癖に思い込みが激しいところがあるから、ちゃんと誤解を解かないと、後々面倒になる。そのことはよく、分かっていた。だから私はなるべく落ち着いて、淡々と説明する。


「ただのお芝居だよ。お互い仕事だって割り切ってやってる」
「アイツに、下心が全く無かったとでも?」
「聖川君に限ってそんなことはないよ。レンだって本当は分かってるでしょう?」
「さぁ、どうだか」


まずい、完全に嫉妬している…!
可愛いヤキモチ、なんてものじゃない。本気で怒っているのが伝わる。


グッと近づく、レンの綺麗な顔。そのままやや強引に押し付けられる唇。

余裕のないキスだな、って思った。普段のレンはこんな事ない。いつもと違う様子に戸惑いながらも、絡まる舌の快感には勝てなくて…。それを素直に受け入れていると自然と口端から吐息が漏れた。


「随分、熱ーいキスだったみたいだけど?」
「んっ…そ、んな…」
「あんな裸で密着しちゃってさ…やたらリアルだったよね、感じたりしちゃった?」
「ありえないよばかぁっ…」


耳元にくっついたレンの唇が擽ったい。今日に限ってシャツワンピを着ていたせいで、レンの手によって簡単に前がはだけた。胸を揉む手も、心なしか力強い。



「ねぇ、アイツ上手かった?」

まだ聖川君にこだわるのかこの男は…!良い加減イラッとしてしまった私はこの空気を何とかしたくて強めにレンの胸板を押して抵抗した。もちろん、ビクともしない。


悔しくて、せめてもと思い足をグッと閉じる。それが不満だったのか、レンは顔を下げて太腿にふっと息を吹きかけた。


「ひゃっ…」

思わず反応して力が弱まった隙に、足を開かれ太腿の内側にレンの唇が落ちた。膝裏から秘部にかけて、舌が這う。何とも言えないぬるっとした感触に、つい感じちゃう。


「そんなのっ、知らないからっ…んっ」
「ふーん…本当、むかつくなぁ聖川の奴。オレのなまえにあんなことするなんてね。ねぇどうする?万が一惚れられたりしたら」
「それはっ…無いって、言ってるでしょ…!」
「そんなの言い切れる?」
「言い切れるよ…!だって、聖川君彼女いるし!!」



私の言葉に、レンの動きがぴたりと止まった。いつの間に脱がされていたのかショーツは片足に引っ掛かったまま。悔しくもすっかり感じてしまっている私は、息を整えてレンの様子を窺う。





「……ない」
「え?」
「そんなの聞いてない!」


珍しく大きな声を上げてばっと顔を上げたレンは相当動揺していて、知らなかったが本当だという事はすぐに分かった。



「え?そうなの?てっきり知ってるかと…」
「知らない!いつから!」
「え、えー…多分もう半年近く前…」
「そんなに!?」


頭を抱え「はぁ…」と息を吐いたレンに、「もう!」と頬を膨らませ腕を軽く叩いた。


大体、どうして私が知っててレンが知らないのよ!同じグループにいるのにおかしくない?どんだけ仲悪いんだ…!

聖川君も聖川君だよ!
前もってレンに、自分の彼女の事話しておいてくれればこんな事にはならなかったのに!もう!


「なんか、ごめんね…」
「本当にね」
「どうすれば、許してもらえる?」



「…続き、してくれたら」


上目でそう、レンに伝えた。
強引に攻められたのは驚いたけど、決して嫌だった訳じゃない。それは私が、ちゃんとレンの事が好きだからだ。

いつものように、ちゃんと…想い合って、愛し合いたいの。


「なまえには敵わないな」

私がありのまま気持ちを伝えると、レンは優しく笑った。もう一度キスが降ってきて、身体全身にレンの手が這う。足の間に腰が入って…いつもより前戯は短かったけど、もう十分にレンを受け入れる準備は出来ていた。


「んっ…あっあっ」
「あったかい…気持ち良いね、なまえ」
「うんっ…うん、あっ、きもちい…」


ソファが柔らかいせいか、律動に合わせて身体が深く沈む。お互いに中途半端に服を着たまま致しているのが、余計に悪いコトをしているみたいで…いつも以上に敏感になっている自分がいた。

繋がっている部分から滴る私のレンの体液が、小さく跳ねてソファと互いの服を汚していく。


「やだっ…ソファ、汚れちゃう…!」
「…あぁ、気にしないで。それよりこっちに集中して」
「あっ…んっ…ふぁっ…!」


するとレンは腰の動きを止めないまま、サイドテーブルに置いていたレコーダーのリモコンに手を伸ばした。集中してと言ったのはそっちの癖に、片手でポチポチと何か操作をしている。そのうちピッと小さな電子音が鳴って、画面に【例のシーン】が映し出された。


「……!!待ってっ…、今は嫌っ…!」
「どうして?せっかくの主演作なのに」
「わざとやってるでしょっ…いじわる…!あっ」


まるで画面の聖川君と競うように、レンが激しく私の身体を揺さぶった。これ以上画面を見ているともっとおかしな気分になってしまいそうで…なるべくテレビから意識を遠ざけたくて、レンの首に腕を回して、鎖骨に顔を埋めた。



「聖川も今頃…そのカノジョとこんな風に仲良ししてるだろう…ね」
「んっ、ぁ…知らなっ」
「あれ?きゅって締まったね。可愛い」


意地悪、意地悪だ。
どうしてわざとそういう事を言うのだろう。

今、私の目の前にいるのは…私と繋がっているのは、あなたなのに。



「他人のセックス想像して、興奮した?」


目を合わせて、これ以上無いってくらい妖しく楽しそうに笑みを浮かべたレンが恨めしい。首を横に振って否定して、私の方から唇を無理矢理合わせた。


「あぁ…イイね、もうイキそうだ」
「んっあっ…あっ、ダメっ、もう…やっ─!」



お互いに限界を迎えてしばらくそのまま抱き合い余韻に浸る。落ち着いてきた頃合に考えるのは、明日以降の撮影の事だった。


「明日からの撮影、上手くできる気がしない…」


両手で顔を覆って溜息を吐きながら呟くと、

「ちゃんとやらなきゃダメだよ。プロなんだから」
「どの口が言うか!」

諭すようにレンに言われて無性に腹が立ち、痛くない程度にはだけた胸板をポカポカと殴った。






翌日──気付かぬ間に付けられていた鎖骨のキスマークを聖川君に指摘され、本当に気まずい思いをしたのは、言うまでも無い。



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