初めてを経験中

もっと自分が経験豊富だったなら、彼女を泣かせずに済んだのだろうか。そんなどうしようもない後悔の念が、最近毎日頭をよぎる。


遡るは数日前。マスターコースの活動と寮での生活にも随分慣れてきた頃だった。
寮の入口で偶然出くわしたなまえに誘われるがまま、彼女の部屋に遊びに行ったことがあった。公にはしていないものの交際はしている相手、何ら不思議ではない自然な流れだった。

しかし問題はその後だ。



「今日は、春ちゃんがお仕事で朝まで帰って来ないの」


予想外のなまえの言葉に酷く動揺しながらも、二人きりで過ごした時間。
交際して一年も経てば自然と「そういう雰囲気」になるのは当然といえば当然で。


しかし互いにそういった行為の経験が無い中、手探りで始めた…は良いが。


「痛いっ…やめて…!」


いざ挿入しようとした時、涙を流して抵抗したなまえを目の前に、あれ以上続ける勇気は俺には無かった。

その後気の利いた言葉もかけられない自分が、なんて情けないのだろうと思った。





「……」
「誰でも初めては痛いからね。仕方ないよ」
「!?じ、神宮寺!何を…!」
「いや、今の独り言全部漏れてたから」
「なっ…」

ま、まさか…全て聞かれていたというのか!?よりによってこんな男に…!何も言えず慌てふためく俺とは対照的に神宮寺は余裕そうで、ニヤニヤと笑い俺を見下ろしてきた。


「さてと、オレも出掛けようかな。あ、明日の朝まで帰らないからよろしく」
「は、」
「ランちゃんも今日は仕事で不在だしね。あと…レディには連絡してあるから、もうすぐ来ると思うよ」
「な…何を勝手に!」
「それから、そこにあるゴムは勝手に使っていいから。じゃ、なまえちゃんによろしく」
「おい!待て神宮寺…」


ヒラヒラと手を振りながら、楽しそうに部屋から出ていく奴を見送った後…何とも言えぬ羞恥心に襲われた。まさか神宮寺に全て知られてしまうとは、一生の不覚…いや、元はと言えば自分がいけないのは間違いないのだが。




「ま、真斗…?」

程なくして、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。そして遠慮がちに部屋の外からこちらを覗くなまえと目が合った瞬間、心臓が跳ねた。


「なまえ…」
「ご、ごめんね急に。レンから連絡来てその、せっかくだから泊まりに来ればって」
「そ、うか…分かった。入ってこい」


暖かそうな素材の白いのルームウェアを着て、枕を抱えたなまえが部屋に入ってくる。
床に座っていた身体をずらしなまえの座るスペースを空けたというのに、なまえは俺のベッドの上に、枕を持ったまま横たわった。


「…真斗」
「もう遅いから寝よう…俺はソファで──」
「シないの?」
「…っ、」


ベッドに倒れ横向きになったまま、なまえは俺の顔をじっと見つめた。
ルームウェアのショートパンツから白い足が剥き出しになっていて、視線を奪われそうになる。なるべく見ないように目を逸らして立ち上がり、顔を背けた。


「それは、その…またの機会に」
「またって、いつ?」
「う、うむ…」
「私がこの間、痛いって言ったから…?」
「それは違う!」
「違くない!私がっ…止めてなんて、言ったから…」


なまえの声が震えている。振り返るといつの間にか身体を起こした状態で、座り込んでいるなまえと視線が交わった。


「真斗っ…」
「なまえ!何をっ…」

あろう事か、なまえは自ら着ていたパーカーのファスナーを下ろし、ショートパンツまで脱ぎ始めた。白い下着に身を包んだなまえは、俺の反応を待つかのように、じっとしている。


「なまえ、聞いてくれ」
「だっ、て…」

そのまま俺はなまえの横に腰掛け、そっと頭を撫でた。少しでも視線を下げればなまえの膨らんだ胸元が目に入る。気にならないと言えば嘘になる、だが今はそれをわざと見ないようにして、なまえの潤んだ瞳を見つめた。


「俺はなまえを傷つけたり、泣かせたりなどしたくない。俺と行為をすれば、またお前が辛い思いを…」
「や、私は…真斗と、したい」
「…っしかし、」
「真斗じゃなきゃ嫌なの、分かるでしょ…?」


その強い眼差しから、なまえの覚悟が見えた気がした。
だが、本当に良いのだろうか…そんな風に思っていると、なまえは俺の手を取って、自分の胸に押し当ててきた。
柔らかいその感覚に、必死に保っていた理性が、音を立てて切れる。

形を確かめるように優しく揉みながら、なまえの顔を引き寄せて、唇を強く押し付けた。勢いあまって歯が少しぶつかってしまい、そんな失敗にも目が合って、なまえと笑い合う。もう一度唇を重ねてから、すぐに舌を出したきたなまえのそれに、つつくように触れてから、また絡めとった。


「…辛くなったらすぐに止める」
「うん…」

唇を離してじっとなまえを見れば、こくりと頷く。そのなまえの潤んだ瞳にすら欲情した俺は、なまえの首に吸い付きながら力任せに押し倒した。




なまえの身体を見るのは二回目だが、その肌の白さが美しくて目が眩む。
下着をつけた状態のままじっと見下ろせば、あまり見ないで、と腕で胸元を隠されてしまう。

恥ずかしがるなまえの腕をそっと退かし、片手で電気のリモコンを取り、部屋を暗くした。



「なまえ」
「あっ…」


下着越しに胸に触れれば、なまえが小さく反応した。そのまま背中に手を滑らせて、下着のホックに指をかける。なまえが背中を浮かせてくれているのに外すのに手こずってしまう。

「外し方、分かりづらいよね」
「す、すまない…」
「ううん、大丈夫」


起き上がってなまえが自分でホックを外す。はらりと下着が肩から落ちるのを確認してから、再度その身体を横たえた。

胸の突起を指で擦りながら、首筋に舌を這わせる。味わうように、何度も何度も。
その度になまえの口からは高い声が漏れた。


「…良いか?」
「ん、いい…よ」

断りを入れてから、なまえの下部に手を伸ばした。下着を脱がせて、直接ゆっくりと割れ目をなぞる。少しでも痛くならないよう、なるべくゆっくり、徐々に指を中に進めていく。

ぎゅうぎゅうと俺の指を締め付けてくる、なまえの中に、自然と息が荒くなっていくのが分かった。


「まさとっ…」
「大丈夫、か?」
「うん…もう少し奥、いれていいよ…」


なまえの顔色を窺いながら、指を付け根まで挿入した。中が溶けるように、熱い。
何度も指を行き来させ、十分に濡れたと思われた頃に、そっと指を抜いた。



「…痛みは、ないか?」
「うんっ…」
「分かった。準備する、少し待っていてくれ」


まさか神宮寺が用意した物を本当に使うとは思わなかった。まったく…いつでも用意周到な奴だ。
慣れていないため時間がかかってしまったがようやく装着し、自身の着ていた浴衣を脱いだ。



なまえの足の間に身体を入れて、ゆっくりと挿入していく。

「んっ、ぅ…あっ」
「痛くないか?」
「だいじょ、ぶ…」


眉間に皺を寄せるなまえの顔に、心が痛む。それでも首を横に振って、続けてと目で合図をする彼女を見れば、自然と腰が進んでしまう。
なるべく気が紛れるよう、何度も何度もしつこいくらいに唇を重ねた。


「くっ、あ…」
「ぜんぶ、はいった…?」
「あぁ…入った、が…」

身体を少し起こして繋がった部分を確認すると、鮮血が伝っている。出血したことに驚いた俺はそのまま腰を引いて抜こうとしたが、腰をなまえの両足に挟まれ、それを阻まれてしまった。


「なまえ、血が…!」
「だい、じょぶ…だからっ」
「しかし、」
「おねがいっ…やめない、で」


涙を目に浮かべ訴えかけるなまえ。
引こうとした腰を前進させ、繋がったままなまえの細い身体をキツく抱きしめた。



「うご、いて…?」
「いや、ダメだ。止めておこう」
「や、やめないでよぉ…」
「なまえ!俺は…」
「真斗になら何されてもいいのっ…何度も言っているでしょう…?」


ぎゅっとしがみついて離れないなまえの身体が愛おしい。痛くて辛いはず…だが健気に俺に縋るなまえの姿と、キツく締め付けてくる下半身の感覚に、我慢など出来なかった。


なまえと繋いだ手に力を込めて、なるべくゆっくりと腰を前後に動かしてみる。ずちゅ、と音を立てて飲み込んでいる様は視覚だけでもいやらしい。顔を上げれば、痛みのせいかはたまた違うのか分からないが、涙を一筋流すなまえがいて、それがまた欲情を煽る。


「あっ…あ、真斗っ…うれし、んっ!」
「なまえ、好きだ…我慢出来なくて、すまない…!」
「いいのっ…いい、からっ…!あ、」


そのまま腰を揺らしながら、もう何度目か分からない熱いキスを交わす。気が遠くなるような初めての快感に酔いしれ、互いへの愛しさを刻みつけるよう、俺達はひたすらに抱き合っていた。






──

「…さと」
「…ん」
「真斗!いい加減起きろ!何時だと思ってんだ!」


目が覚めると、上から俺を見下ろす黒崎さんの顔があった。いつの間にか朝も過ぎて、昼近くになっていたようだ。


横に寝ていたはずのなまえの姿はなく、脱いでいたはずの浴衣も綺麗に着せられていた。情けないことに、なまえが先に目覚めていたことにも気が付かなかったようだ。


そうか…黒崎さんが朝帰る前に、自分の部屋に戻ったのか。


「…ったく、仕事がオフだからってよ。レンもまだ帰ってこねぇし…」

ぶつぶつと文句を言う黒崎さんに申し訳なくなりつつ、スマホの画面を覗くと2件の新着メッセージが入っていた。
ひとつはなまえから昨晩の礼が書かれていたもの、


そしてもうひとつは

『童貞卒業おめでとう。避妊は毎回しっかりね』
「神宮寺め!!余計なお世話だ!!」
「おーい真斗、朝…じゃねぇや、昼からうるせぇぞ」


何も知らない黒崎さんに怒られ、帰ってきた神宮寺にからかわれ、今日は散々な一日になるだろう。

だが、それ以上になまえを腕に抱いたあの感覚が忘れられず、一刻も早く会いたいと願ってしまうのだった。



[ 9/27 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -