「夢の国?何それ。そんな名前の国はデータに無いけど。それ、この世界に実在するの?」
あまりに現実的なことを言う藍ちゃんを連れてやってきた。夢の海の国。
最近新しく出来た、魚の形をした潜水艦に乗るアトラクションに真っ先に並んだ私たち。
見慣れない景色に、藍ちゃんは周りをきょろきょろと見渡している。
間もなく順番がやってきて、目の前のスタッフさんが乗る前の説明をしてくれている。
私達はチヂミニウムという特殊な分子で小さくなった潜水艦に乗り込み、魚たちと同じサイズになって海を冒険する、というストーリーなんだけど…
「チヂミニウム?そんな分子はこの世には存在しないよ」
「ちょ、藍ちゃん。これフィクションだから…」
「中に乗っている人間までも小さくなる?は?何これ子ども騙しなの?ありえないよ。少なくともボクのデータには」
「うんごめん。お願いだからちょっと黙っててくれるかな」
お願いだから子どもの夢を壊すようなことは言わないで。
心からそう願っていてても、藍ちゃんは中々いつものクールな表情を崩さない。
…と思っていたら。いざ乗ってみると、子供みたいに目をキラキラさせて、画面に釘付けになっている。
あ、可愛い。めっちゃ可愛い。
良かった。藍ちゃんが楽しんでくれて。
「画面の動きに合わせて座席が動く仕組みなんだね。うん、なかなか面白い発想で新鮮だった」
「うん。藍ちゃんが楽しんでくれたならそれでよかったけど…最後、水かかってたけど大丈夫?」
「…熱い」
「うそ!?」
「ごめん、やっぱり水は…ダメみたい…」
「わあぁぁ!ごめんね藍ちゃん!」
電話でわざわざ千葉まで呼び出した博士に、「藍を何てものに乗せるんだ!」と怒られてしまった。ちぇっ。
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