ふと貴方を思い出す




「やだやだやだやだ!音にいと離ればなれになるなんて絶対いやっ」

「…っ、涼花…」

「やだよぉ…」

「涼花、この前おれが言ったこと覚えてる?」

「音にいが、アイドルになるっていう、はなし…?」

「そう!おれ、絶対アイドルになってみせるよ!涼花のために!」

「ほんとう…?約束して、くれる…?」

「うん約束!絶対だよ!」





「涼花がおれの事、すぐに見つけることが出来るように」



───

「…涼花?涼花ってばーっ!」
「うおおおっ!?」
「もう、なんつー色気のない声出してんのよ。もう講義終わってるわよ」


今日最後の5限の授業。あまりに退屈だったものだから、机に突っ伏して寝ていたら、また小さな頃の夢を見てしまった。



「うわ、ごめん…超爆睡してた」
「見てたから分かってるって。今日あんたバイトでしょ?途中まで一緒に帰ろ!」
「うん!」


賀喜涼花。どこにでもいる普通の大学三年生。容姿もスタイルもいわゆる普通で、特に何も好きな事とか、趣味とか、得意なこともない、本当に普通の21歳。


もともとは東京で生まれ育った。両親は知らない、いや知らなかった。
物心ついた頃から、親も分からないままずっと、施設で暮らしてきたから。


でも私が10歳の時、突然親と名乗る人から連絡があって…施設を離れて福岡で暮らすも、両親との関係は上手くいかず。
縁は切っていないけれど、なんとなく気まずくなって。結局大学生になってから一人で上京…というか、東京に戻ってきた。
今は都内の大学に通いながら一人暮らしをしている。





授業も終わり、賑やかな渋谷の道を歩く。
すっかり慣れた人混みだけど、相変わらず人の流れはすごい。

すると突然友達の美紀が立ち止まり、大きな看板を指さした。


「きゃーっ!涼花!見て見て!」

「え?なにが?」

「ポスターST☆RISHだよ!超かっこいいっ」



街中のビルに大きく展示されているポスター。
今をときめく超人気アイドルの新曲の告知ポスターが飾られていた。


隣にいる美紀は携帯で写真を撮りながら「トキヤさまぁぁ」って叫んでいる。…うん、ちょっと恥ずかしいな、他人のフリしようかな。


そう言いつつも、私も興味がない訳ではない。
そのポスターの真ん中には、私の幼馴染が写っているから。


小さな頃からずっと一緒に施設で暮らしてきた、
私の…初恋の人。


音にい、もとい一十木音也はこちらを見つめながら昔と変わらない笑顔を道行く人に振りまいていた。




「涼花がおれの事すぐに見つけることが出来るように」



そう言ってた音にいは本当に約束を守って、アイドルになった。

昔はあんなに近くにいたのに、11年経った今、音にいは私には到底手の届かない人になってしまった。



「美紀ー、私そろそろ行かないとバイト遅れちゃうよ〜」
「えぇぇ!ちょっと待って!あと一枚だけ!」
「もう、仕方ないなぁ…」


ねぇ、音にい。あの時の約束、覚えてる?

音にいがアイドルになるっていう約束ともう一つ、とっても大切な約束をしたの。

音にいが例え忘れてしまっても、私はずっと覚えてるよ。




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