切ない恋心



「…はぁ」
「何よさっきから。溜息ばっかり」


今日はバイトは休み。講義が終わってから美紀と居酒屋に飲みにやって来た。
自分のお店は何となく気まずいから、普通のチェーンのお店。

私は芋焼酎を一口また飲んで、ちょっと大袈裟にグラスを置いた。



「…失恋した」
「えぇっ!?涼花が?めっずらしー。ていうか好きな人いたんだ」
「まぁ…うん。でも告白する前に終わった。ていうか彼女いるの知らなかった」
「うわ、どんまい」


枝豆を一つ摘みながら言う美紀に、こんな話をするのは珍しい。ていうか、私が恋バナを自ら振るのが珍しいと思う。でも今日ばかりは愚痴らずにはいられなかった。

まぁその相手が一十木音也だなんて、口が裂けても言えないけど。



「うぅ、辛い」
「とりあえず彼氏欲しいならもう少し可愛いお酒飲めば?芋焼酎って…色気無さすぎ。というか男前すぎ」
「ビール3杯目の美紀に言われたくない」


というか、そもそも可愛いお酒って何?

二人でうーん、と唸る。というか私達は何の話をしていたんだっけ。




「…カルーアミルクとか?」
「うわ!女子!でも狙いすぎじゃない?」

あの女の子が頼んでいたやつを呟いてみる。まぁ…私と美紀はまず頼まないなぁ。




そういえばあの女の子…ハルカ、さん。
見るからに女の子っていう感じの子だった。か弱くて守ってあげたくなるような…やっぱりああいう子がモテるのか。はい、切ない。


そもそも、あの子は一体誰なんだろう。

音にいと付き合ってて…あ、あと寿さんとも知り合いみたいだった。同じ事務所のアイドルとか?…美紀なら知ってるかな。



「美紀、」
「ん?」
「話変わるんだけど、シャイニング事務所でハルカっていうアイドルとかいる?」
「話題の変わり様に驚いてるんだけど」
「だからごめんてば」
「ハルカね、アイドルじゃないけど一人知ってるよ」


スマホを操作していた美紀が、画面を私に見せてくれた。そこにはあの時居酒屋にいた女の子の画像。あ、ビンゴかも。



「七海春歌。シャイニング事務所所属でST☆RISHの専属の作曲家」
「作曲家…」


何かのインタビューの記事。そこには確かに話題の作曲家、という文字が記載されていた。


美紀からスマホを借りてふんふん、と記事を読んでいく。
早乙女学園出身…音にいと同じか。そこにはST☆RISHのメンバーと同級生と書かれていた。

なるほど…学園時代からの仲な訳ね。


優しく微笑む彼女の写真。何とも可愛らしい。それに記事によると作曲家としてもかなり優秀だそう。はい、勝てる要素がひとつもありません。



「ST☆RISHと同期で、仲もかなり良いらしいよ」

美紀はどこか不満そうに頬杖をついた。ずるいよねぇ、トキヤ様と毎日一緒にいれて…とブツブツ言っている。




「しかもね、メンバーの音也と付き合ってるって噂があってさ」
「えっ!?」
「あぁ、これファンの間では有名な話」

音にいの名前に思わず心臓が跳ねる。そっか…ファンの中では周知のことなんだ…




「1回週刊誌に載って、結構騒がれたんだよね。でも音也も否定しなかったから事実なんだって…なんか今はこう、ファンの中ではそういうことになってる」


作曲家がアイドルに手を出すなんて…と、当時はネットも大炎上したらしい。そうなんだ…全然知らなかった。

じゃあ付き合ってるのは間違いないんだ。そうだよね、キス、してたもん。



女の子っぽくて可愛いその春歌さんは、音にいとすごくお似合いで。また頭に二人のキスの映像が浮かんで、胸が苦しくなった。



「それで涼花、なんで急にそんな話?」
「う、ううん!何でもない。ありがとう」



不思議そうに私の顔を見つめてくる美紀を誤魔化すように、芋焼酎をまた一口。

口に含んだその味はいつもよりちょっぴり苦かった。




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