ル イ ラ ン ノ キ


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2015
お菓子の代わりにお話を。

『ジャックとシーツとゆかいな仲間たち』



10月31日。
日本でいうお盆のように、死者の魂が戻ってくるとされ、家中のお菓子などをかき集めて持て成し、悪霊を追い出すお祭りと言われている。

これはハロウィンパーティが始まる数時間前のお話。

「ジャックジャックジャックジャーック」

外はすっかり暗くなり始めた森の奥深く、木の上に作った隠れ家で横になっているジャック・オ・ランタンの周りを飛び回るのはシーツだ。名前のとおり、つぎはぎのシーツを被った可愛らしい幽霊である。

「なんだよ」
「今年もハロウィン来たよ!」
「知ってるよ。土の中にいるゾンビでさえ知ってんだから」
「今年はなにする? 今年はどんなイタズラするのー?」
「別に普通だよ」
 と、シーツに背を向けるように寝返りをうったジャック。なんだか元気がないように思う。
「なんかあったの? ジャック」
「なにもないよ」

シーツは暫くそんなジャックを眺めた後、黙ってその場を後にした。
なんだかおもしろくない。シーツはもうひとりのともだちの家へ向かった。

シーツのともだちはかぼちゃを被ったジャック、お墓に住んでいるゾンビ、そして去年のハロウィンで仲良くなったコウモリのバット。ゾンビは呻き声しか発せないし腐ったにおいを放つせいで人間から本気で嫌がられるため、ハロウィンが来ても引きこもり。バットはそんなゾンビの呻き声にしかならない言葉を理解でき、ジャックやシーツに伝える役目でもある。
シーツがまずはじめに向かったのはゾンビのところだった。
木々を抜け、古い墓地を見つけた。かつてはここまで足を運んで墓参りに来る人間の姿を見たが、今はもうここ数年、そんな姿は見られない。

「ゾンビー。いるんでしょー? 出てきてよー」

ひとつの墓の前で声をかけてみるが、うんともすんとも言わない。

「また居留守使うつもりー? 引きこもりなんだし他に行くところもないんだからいるのわかってるんだから出てきてよー」

それでも返事がないため、仕方なく勝手に話を進めた。

「ジャックの様子が変なんだ。いつもならさ、ハロウィンが来ると気分上がって、新しいかぼちゃを用意して今頃目とか口とかくりぬいているのに、古いかぼちゃ被ったままだしさ、今年はどんなイタズラするの?ってきいても『別に普通だよ』とかいうんだ」

シーツはお墓の周辺をぐるぐると浮遊し、土の中からゾンビが出てくるのを待った。けれど、待てども待てども出てこない。

「ゾンビは留守だぞ」
 と、墓場を囲む木々の上から声がした。

シーツは声がするほうへ近づくと、コウモリのバットが枝にぶら下がっていた。

「なんだコウモリの奴かー」
「バットだよ」
「でもジャックはバットのことコウモリのやつっていうけど」
「まぁバットもコウモリだからな、意味は」
「そうなの? じゃあコウモリでいいじゃん」
「バットのほうがかっこいい」
「そうかなぁ。コウモリのほうがいい!」
「もうどっちでもいい……。とにかくゾンビはいねーよ」
「うそだね。あいつが出かけるわけない」
「それが出かけてるんだ。フィアンセと」
「ふぃあんせってなに? 名前?」
「恋人だよ。最近知り合ったらしい。小一時間前にゾンビのねーちゃんがやってきてゾンビの野郎を連れて行ったんだ」
「誘拐じゃなくて?」
「だからフィアンセだって。イチャコラしてた」
「イチャコラってなに?」
「お前ほんと言葉しらねーのな。とにかく、いねーもんはいねーの。じゃあな!」

バットはそう言い放って羽ばたいて行った。しかしシーツはすぐに追いかける。

「じゃあさ、じゃあさ、コウモリの奴でいいから話をきいてよ」
「“コウモリの奴”って言い方はその場にいないときに言うんだよ。ついてくんな」
「じゃあコウちん」
「バットかコウモリにしてくれ。ついてくんな」
「だってゾンビがいないんだ。そしたら、コウモリに話すしかないんだ。ボク、ジャックとゾンビとコウモリがともだちだからさぁ」
「少ねーな、ともだち」
「そうなの? コウモリはともだち沢山いるの?」
「いるけど」

バットはシーツをある場所に連れて行った。
立派な山の、崖の上部にある大きな洞窟。そこにはバットと同じようなコウモリが沢山いた。

「わー、これみんなコウモリのともだちなの?」
「みんなともだちってわけじゃねーけど、家族とか親戚とか色々だ」
「いいなー。楽しそうだなー」
 と、シーツは洞窟の中を一通り見て回った。
「お前もともだち増やしとけよ。そしたらジャックの苦労も減るだろ」
「苦労?」
「元気ねーんだろ? お前に疲れたんじゃねーの? お前うっとうしいから」
「…………」

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©Kamikawa

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