ル イ ラ ン ノ キ


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2014
お菓子の代わりにお話を。

『楽しみなハロウィン』



10月31日。
日本でいうお盆のように、死者の魂が戻ってくるとされ、家中のお菓子などをかき集めて持て成し、悪霊を追い出すお祭りと言われている。

でもこれはHalloweenより数日前のお話。

「ねぇ」
「…………」
「ねぇってば」
「…………」

ごりごり、ごりごりとナイフでかぼちゃに穴を空ける、カブ。カブと言っても、目と口があるカブの頭に、人間の身体がくっついているカブだ。地べたに座り、かぼちゃを足の間に挟んで固定し、無言でひたすらにくり貫いている。

「ねぇーってばジャックー!」
 と、さっきからカブに声を掛けていたのは、こぶしくらいの大きさの黒いモヤモヤ。モヤモヤには赤い点の目が二つ。
「うっさい! オイラは今いそがしいんだよ」
「見ればわかるけどさ」
「じゃあ話しかけるなよ」
 と、ジャックはため息混じりにそう言ってモヤモヤを見やった。
「今年もやってきたね! ボクたちのハロウィン!」
「まだだよ。それにあれは人間達のハロウィンなんだよ、毎年言うけどさ」
「そうなの?」
「年に一回くらい人間界に戻ってさ、だいすきな人に会いに行く日をあたえられたのに、調子にのった一部の連中がお祭りさわぎして人間にいたずらすっからこうしておかしなお祭りになってしまったんだ。お菓子を用意してるのだっていたずらされずに追い払うためだぜ」
「そうなの?」
「そうさ。お呼びでないんだ」
「およびでないのになんで人間は楽しそうにボクたちみたいな格好して楽しんでるの?」
「それはあれだ。自分がオイラたちにいたずらされないように仲間だと思わせるためさ」
「バレバレなのに?」
「人間はアホなんだ」
「そっか、人間はアホなんだね」

モヤモヤはジャックの周囲を浮遊しながらぐるぐると回った。

「じゃまするなよ」
 と、ジャックはまたかぼちゃに穴を開け始めた。
「ねぇジャック、カシミヤってしってる?」
「カシミア? 昨日あいさつしにきたゾンビのねえちゃん?」
「ちがうよ、カシミヤっていう布が、気持ちいいんだって聞いたんだ。人間が話してた」
「ふうん」
「ボクそれさがしてるんだけど見つからなくて。それ見つけないと今年のハロウィンには出られないよ」
「いつものシーツでいいだろう? おばけがキレイな布を着てたらおかしい」
 と、手を止める。
「かぼちゃをかぶるのはおかしくないわけ?」
「これはこれがオイラだからな!」
「ボクだって、ボクといえばシーツで、シーツならなんでもいいじゃない」
「じゃあ花柄のシーツでも着てろよ。オイラは忙しいんだ。ゾンビのやつにでも手伝ってもらえよ、そのカシミリアってやつ」
「カシミヤだよ。もういい! ジャックは自分のことしか考えないんだから!」
 と、黒いモヤモヤこと“シーツ”は、暗闇に消えていった。

「なんだよシーツのやつ……」

もうすぐハロウィンだというのに、いつもの相棒と喧嘩してしまったジャックとシーツ。毎年ハロウィンになるとふたりで人間の仮想行列に入り込み、一緒になって思う存分いたずらするのだが、今年はどうなることやら。

「カシミリア……ボロ切れのほうが格好がつくのに」
 ジャックはそう呟き、くり貫き終えたかぼちゃを持ち上げて眺めた。

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©Kamikawa

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