ル イ ラ ン ノ キ


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お菓子の代わりにお話しを。
おばけさんへの捧げ物 -2012

Trick or treat!




「食いもんよこせこのやろー」
「おやつくれないと悪戯するぞー!」

「……こんな感じ?」
「うん、確かこんな感じ」

午後7時すぎ。
カボチャをくり抜いたマスクを被ったジャック・オ・ランタンと、頭から白いシーツを被って小さな目の穴を二つ開けただけのおばけが、なにやら木陰でヒソヒソと会話をしていた。

「でもさ、ほんとに食いもんもらったらどうする?」
 と、カボチャは言う。
「いたずら出来なくなっちゃうね」
 と、シーツは言う。
「ばか。違うよ。食いもんもらってもさ、オイラたち本物だから人間の食べるやつ食べられないっていう話だよ」
「あぁ、そういう話ね。飾ればいいよ。おやつってなんだか可愛い」
「腐るよ」
「腐ったらさ、ゾンビのやつにあげればいいよ。あいつ腐ったものに目がないし。本当に目玉はないけどね。でも見えてる。不思議」
「あいつもハロウィンパーティーに参加すんのかな」
「どうかなぁ、去年は大変だったよね、ゾンビのやつ、異臭放つからさ。人間のやつが『どんだけリアリティだすんだよ』って言って、おやつじゃなくて防臭スプレーもらってたよね」
「あれから引きこもりだよな。ゾンビ映画の撮影に紛れ込むのが好きだったアウトドアなゾンビだったのに」

──と、その時、ガサガサと茂みの中から人間の男の子が顔を出した。

「あ……」
 カボチャとシーツは驚いたが、人間の男の子は人差し指を口元に持ってきて、シーッと言った。
「かくれんぼしてるんだ。静かにしてね」
「…………」

カボチャとシーツはホッと胸を撫で下ろした。どうやら自分達が本物だと気づかれてはいないようだ。
それにしても男の子は全身どろだらけで、擦りむいたケガまでしている。遊び盛りの男の子という感じだ。男の子は辺りを警戒しながら、声をひそめて言った。

「ハロウィンは明日だよ?」
「あ、うん。リハーサルをちょいとね」
 と、カボチャが答えた。
「ふうん。あ、いいこと教えてあげるよ」
「なになに?」
 と、シーツが身を乗り出す。
「赤い屋根のロバートさん家、お金持ちだから沢山お菓子貰えるんだよ!」
「…………」

カボチャとシーツにとってはあまり魅力的な話ではなかった。おやつをもらうより、悪戯がしたい。

「食いもんくれない人間の家を教えてくれよ」
 と、カボチャはお願いした。
「えー、なんでだよぉ。お菓子ほしくないのー?」
「オイラたちはいたずらがしたいんだ」
「いたずらならお菓子もらってもすればいいよ。トイレットペーパーを木に巻き付けたりさ!」
「え……でも『Trick or treat. 悪戯かご馳走か』って唱えるじゃないか。ごちそうくれたらいたずら出来ないよ」
「律儀だなぁ」
 と、男の子は呆れたように言った。

──りちぎってなんだろう? シーツは首を傾げた。

「とにかく、ハロウィンの日は、いたずらしていいんだ! 思う存分いたずらするといいよ!」

男の子からそう聞かされ、カボチャとシーツは明日がますます楽しみになった。

年に一度、人間たちと一緒に騒げる日だ。
思いっきり楽しむぞ!

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©Kamikawa

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