ル イ ラ ン ノ キ |
翌日の午後9時。
魔女やコウモリ、ゾンビやドラキュラ、そしてフランケンシュタインなどの仮装をした人間たちが町中を練り歩いている。
暗くなった空にぽっかりと浮かぶ月に薄い灰色の雲が重なり、一段とハロウィンの不気味さを演出している。
カボチャとシーツはタイミングを見計らって、仮装した人間たちの列に入り込んだ。
「ふふ、うまくいったねジャック」
と、シーツは言った。
「トリック・オア・トリート! トリック・オア・トリート!」
と、カボチャは既にハイテンションだった。
「トリック・オア・トリック!」
と、シーツ。
「まちがってるよ、それ。結局ゾンビのやつ来なかったなー」
「まだ体臭気にしてるみたい。おやつもらってもっていってあげよう!」
「やだ。オイラいたずらがしたいんだ。トリック・オア・トリート! トリック・オア・トリック!」
人間に紛れていたずらをするのは楽しい。おばけである自分たちだって、人目を気にせずお祭り騒ぎはしたい。普段なら自分たちを見て叫び声を上げて逃げてゆく人間たちも、今日は一緒になって笑い合うのだ。
「ジャック、飴玉いっぱいもらったよ」
と、シーツは拾ったビニール袋に沢山の飴玉やクッキーを入れて満足げに言った。
しかしカボチャのテンションは下がっていた。俯き、とぼとぼと歩いている。
「気にすることないよジャック。たしかに家からおやつを持って出てきた優しそうな女の人に、水鉄砲のようにマスタードとケチャップを浴びせかけたのはやりすぎだとは思うけど」
「やさしそうな人間が魔女になった瞬間を見た気がした」
カボチャはそう言ってとぼとぼと仮装列から離れてゆく。
「どこにいくの? ゾンビのやつに会いに行くの?」
と、シーツは慌てて後を追った。
カボチャは立ち尽くしていた。シーツはどうしたんだろうとカボチャの視線の先を辿ると、民家の影で子供達が3人集まって騒いでいる。
「おやつの分け合いかなぁ」
と、シーツは言った。
「ちがうな。よくみてみろ」
カボチャにそう言われ、シーツは目を凝らした。
集まっているのは3人だと思っていたが、3人に囲まれてもう1人、男の子がいた。
「おまえのお菓子よこせよ!」
「全部出せ!」
「くれなきゃ悪戯するぞ!」
そう言って3人の子供達は、1人の男の子に砂を掛けた。小石を投げた。髪をひっぱった。
「もうすぐ帰らないとね」
と、シーツは少年らに視線を向けたまま、カボチャに言った。
「そうだなぁ。人間が少なくなってきたら、オイラたちが本物だってバレてしまう確率が上がるからな」
カボチャもまた、少年らに視線を向けたままそう答えた。
1人の少年は、3人の少年らにお菓子を奪われてしまった。3人の少年らのポケットは、お菓子でパンパンに膨らんでいる。
「ジャック、あの子たちたのしそう」
「うん、最後にいたずらしよう」
「そうしよう!」
カボチャとシーツは少年らに近づいた。
少年らはカボチャとシーツに気づくと、罰の悪い顔をして、膨らんだポケットを必死に隠そうとした。
座り込んでいた1人の少年は、昨夜かくれんぼをしていた少年だった。少年はただただ目を丸くしてカボチャとシーツを見上げていた。その目には欝すらと涙が浮かんでいる。
「Trick or treat. 悪戯かご馳走か」
カボチャは3人の少年らにじりじりと歩みよりながら言った。「Trick or treat. 悪戯かご馳走か」
「な、なんだよ! こどもからお菓子とろうって言うのか!」
一番威勢のいい少年がそう叫んだが、カボチャは怯まずに顔を近づけた。
「Trick or treat. 悪戯かご馳走か。答えるんだ」
少年は見てしまった。カボチャにくり抜かれた三角の穴から、赤く光る目玉を。その不気味な目玉は少年を捕らえて離さなかった。
Trick or treat. 悪戯かご馳走か
Trick or treat. 悪戯かご馳走か
シーツが浮遊しながら少年らの周りを回りはじめた。
「うわあぁああああぁあぁ!!」
少年らはポケットからお菓子をぽろぽろと零しながら、走って逃げて行った。
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