ル イ ラ ン ノ キ


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「え、魔女? また?」

お墓に戻ると、ゾンビがいた。ただ、隣にはフィアンセがいる。邪魔してはいけないと思い、時間を置いてまた来ようと帰ろうとしたバットに気付いたゾンビが彼を引き止めた。そして、ジャックとシーツの仲について尋ねると、魔女の名前を口にしたのである。

「あがあああぁあうあああぁ」
「4年前のハロウィンに?」
「う”がぁああぁぁ」
「魔女とジャックが?」
「うぅぅうううぅ」
「密会しているのを?」
「見た」
「見た。──って、そこだけ言えるんだ」
「んががあああぁ、あがあああぁぁ」
「そのあと魔女の家から?」
「う”ぅうううぅうううぅあぁああ」
「シーツを連れたジャックが出てきただって?」
「うがががががががが」
「俺が思うに?」
「うぐぐうぐううう……」
「魔女から助けたんじゃないか、だって? 捕らわれていたところを? それ去年の話じゃないのか?」
「あぐああああぁあ」
「シーツが魔女に囚われたのは2回目……。同じ魔女だったのか?」
「あ”あぁああああ」
「俺は魔女の顔を?」
「見た」
「見た。──やっぱ『見た』だけ言えるんだ」

これはどういうことだろう? 魔女は一昨年からシーツのことを狙っていたのだろうか。去年ふたたびシーツを捕らえたものの、またジャックに邪魔をされたということだろうか。ジャックはそんなこと一切言っていなかった。

「オレちょっと魔女んとこ行ってくる」
「あががあああが」
「大丈夫だって。お前はゾンビのねーちゃんと仲良くな!」

バットは大忙し。今度は例の魔女の家へと向かった。

「あ”ぁああああぁ」
 行かなくていいの?とフィアンセ。
「うぐうううぐう」
 君との時間の方が大事だよ、とゾンビ。
「んあぁああぁ」
 嬉しいわ、とフィアンセ。
「んがあああぁあぁ」
 でもなにかあったら駆けつけようと思う。
「あ”ああぁああぁ」
 男らしいのね。
「があぁ」
 まあね。
「あ”あ、がぁぁ『うが』あぁううがぁああ」
 ところで、なんで「見た」だけはっきり言えるの?
「う”うううぅ、がぁ『見た』がああぁああぁあ」
 よくわからないけど、最近「見た」だけ言えるようになったんだ。
「あ”ぁあああぁぁぁぁぅううぅ」
 普通に話せるようになるといいわね。
「がぁあああ」
 特訓するよ。

━━━━━━━━━━━

バットは去年会った魔女の家へと急いだ。ジャックとシーツの間になにがあったのかはしらないけれど、ハロウィンパーティがはじまるまでにはなんとしてでもその仲を取り持ちたい。
去年のハロウィンを思い出す。あんなに楽しかったハロウィンは初めてだ。
それに──

「……オレはおばけじゃない」

いつまで彼らと過ごせるのか、わからない。
だからこそ、時間が許す限り楽しい日々を過ごしたいんだ。

魔女の家にたどり着いたバットは、一先ず窓から中を覗き込んだ。魔女といえば大きな壷の中の液体をグツグツと煮込みながらかき混ぜているイメージがある。でも、室内にある大きな壷は空のようだ。そして魔女の姿もない。

「死んじまったのかな」

そう呟いたとき、コツンと頭になにかが当たった。

「魔女はそう簡単には死なないさ」

真後ろにいたのは去年出会った魔女だった。魔女はもう一度杖でコツンコツンとバットの頭を叩いた。

「何のようだね」
「ジャックとシーツのことをききにきた。なんか二人の様子がおかしいんだ」
「それでなんであたしのところに来るんだね」
 と、魔女は家の玄関に回る。
 バットは後ろからついて行く。
「ゾンビが魔女ならなにか知ってるんじゃないかって。ふたりの出会いとか知ってるなら教えてくれよ。去年はじめて会ったわけじゃないんだろ? シーツのこととっ捕まえようとしてるのか?」
「質問が多いね」

魔女がうんざりしながら室内に入ると、バットも勝手に入り込み、電気の傘にぶら下がった。

「まったく……」
「なにか知ってることがあるなら話してくれ。じゃねえと帰らねぇぞ」
「…………」

魔女は木のテーブルの下にあるいくつもの竹籠から干からびたトカゲやみたことのない植物、なにかの骨などを取り出して、テーブルの上に広げた。

「シーツもなにかの材料にしようとしてんのか?」
「あんなもの、なんの材料にもならんさ」
「じゃあなんで二度も捕まえるんだ」
「二度?」
 と、魔女はバットに目をやった。
「ゾンビが言ってた。魔女の家に一人で入っていくジャックを見て、そのあとシーツを連れて出てくるのを見たって。捕まえてたんだろ?」
「…………」

魔女はなるほどと小さく何度も頷き、大きな包丁で用意した材料を細かく切り始めた。

「そんなに知りたいならかぼちゃから直接訊けばいいじゃないか」
「きいても答えないからわざわざここまで来たんだ」
「教えてやってもいいが、その代りコウモリの死骸をくれないかい」
「え……」
「なにも殺してこいと言ってるんじゃない。既に死んでいるコウモリを運んできておくれよ」
「……なにに使うんだよ」
「材料に必要なのさ」
「なんの材料だよ。ていうか魔女っていつもなに作ってんだよ」
「持ってこないならあたしは答えないよ」
「…………」

バットは暫し考えた。知らないコウモリでも仲間は仲間だ。死骸とはいえ、魔女に手渡すのは嫌だった。でも断ればジャックとシーツのことを教えてはもらえない。

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©Kamikawa

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