voice of mind - by ルイランノキ


 アーテの館14…『第2の鍵』

 

階段を上がる度に前へ進む足が重く感じていた。
何故だろう。でも今ならわかる。怖かったんだ。
 
どこかで私は一体何者なのか、アリアンの塔へ行けば全てが明らかになるような気がしていた。
それと向き合うのが怖かったんだ。
私の知らない私が待っているような気がして。

 
━━━━━━━━━━━
 
「ルイっ!」
 
4階に上がったアールたちの目に映ったのは中央にて出迎えた魔物よりも左端の奥に設置されている檻の中にいたルイだった。
 
「無事でよかった……」
 と、呟いたアールに、魔物が容赦なく攻撃を仕掛けてきた。
「アールさんッ!!」
 
巨大なそれは青銅の巨人、タロスだった。分厚い鎧を纏ったタロスは大きく拳を振り上げる。一斉に階段へ非難すると、タロスの拳は床に叩きつけられ、建物が大きく揺れた。
 
「おいおい壊れんじゃねーのか?!」
 と、シドは顔をしかめた。
「こんなおっかねぇものを飼うくらいだ。それなりに頑丈な建物なんだろう」
 と、ベンは言った。
「スピードは遅いがパワーと体力は異常だねぇ」
 クラウンはそう言って腕を組んだ。「鎧を真っ赤に染めてエンフラム(火の中級魔法)を使う」
「詳しいんだな」
 ベンはクラウンを見遣った。
「以前見たことがあるのさ。火属性なら水に弱そうだが、鎧に水なんか大して効かない。相手の攻撃力を弱めることなら可能だけどねーえ」
 
ベンの武器は火属性だ。近距離攻撃しか出来ない。シドは攻撃魔法を使えるものの、無属性。アールも同じだった。肝心なルイは檻の中で手出しが出来ない。
 
「オレが手を貸してやってもいいけどねーえ」
 と、クラウンは両手を合わせてそれぞれの指を組んで祈るときのようなポーズをしたあと、指を離した。合わさっていた両手の間に赤い火の玉が出現し、それをタロスに向けて放った。
 
タロスの顔を覆う炎が広がり、少しのダメージを与えて炎は消えた。
 
「お前が使える魔法は?」
 と、シド。
「エンフラム(火/中級)、エンエクレア(雷/中級)、エンアース(地/中級)。あとは結界と毒性の魔法と中級の回復魔法だねーえ」
「ならテメェが行け。俺は力ずくでいく」
 
クラウンがメインとなって戦闘が始まった。シドは自分の体力を考えながら力任せに攻撃を仕掛けた。
ルイは檻の中で戦闘の勝敗を見守っていた。そして、新たに現れたタロスという魔物を見て今後の対策を考えなければと頭を悩ませた。──攻撃魔法を取得しなければ。
 
「あいつ普通に戦えるんだね」
 と、カイは隣にいるアールに言った。あいつとはクラウンのことである。
 
以前カイと戦ったときはバトルというより遊ばれているだけだった。なにもない場所から吸血コウモリを出して見せ、攻撃してきたり、ダーツの矢を投げてきたり。とても強そうには思えなかった。そんな奴に一方的にやられていたかと思うとカイは自分を許せなくなった。手加減もいいところだ。
 
「魔物が相手だからなんじゃない? やっぱり、魔物と戦うのと人と戦うのは違うよ……」
「でもさ? 俺がすげー強かったらタロスと戦ってる今みたいに襲ってきたと思うんだ。バカにされてたんだろうなーって思っちゃう」
「バカにされてたんだとしても、それでよかったよ。無事でいてくれてよかった」
 と、アールは笑顔で言い、戦闘中のシドに目を向けた。
 
カイはアールの横顔を眺めた。そう言ってもらえて嬉しかったのだ。確かにそう、やられていたら元も子もない。遊ばれてよかった。こうして以前よりは使える仲間として旅が出来る。
今こそ、本当に“仲間”になれたような気がする。
 
「強くならなきゃ」
 と、アールは呟いた。
「もっと強くならなきゃ……もっと……」
「…………」
 カイの目に、アールが自分を追い込もうと焦っているように映った。
 
戦闘時間は1時間以上にも及んだ。それだけ苦戦したと言えるが、数が限られている回復薬を考えて温存しながら戦ったせいでもあった。
ドシーン!と、轟音をたてながら倒れ込んだタロス。戦闘不能になったものの、まだ呼吸を繰り返しているのがわかる。シドはタロスの頭を踏みつけ、刀の刃先を鎧の隙間から首に差し込んだ。呻き声を上げながらタロスは息絶えた。
 
「鍵?」
 と、汗を滲ませたシドは刀を鞘にしまい、タロスの首にかけてあった鍵を手に入れた。
「おそらくこの檻の鍵かと」
 と、ルイ。
 
シドは鍵を放り投げるようにアールに向かって投げた。アールは慌てて受け取り、ルイが捕らえられている檻に走り寄って鍵を差し込んだ。
 
「ん? 回してもスカスカなんだけど……」
「ここの鍵ではないということですか?」
「これはどうだ?」
 と、ベンがもうひとつの鍵を差し出した。3階で手に入れた鍵だ。
 
その鍵でルイを救出することができた。
束の間の休息を取り、5階への階段を上がった。そこは鍵つきの扉が一行の行く手を塞いだが、タロスの首に掛けられていた鍵によって開き、第1の鍵を見つけたときのようにアリアンの像と聖なる泉、外へ繋がっているゲートがあった。そして宝箱も2つ。
タロスとの戦いを終えたシドとクラウンは泉には入らなかった。水の補給だけし、アリアン像の首に掛けてある【第2の鍵】を手に入れた。
 
「戻りましょう、お疲れ様でした」
 ルイがそう言い、ゲートからアーテの館を離れた。
 

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©Kamikawa
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