voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助18…『予定変更』

 
アールを宿まで送り届けたルイは、その足で三部隊がチェックインした別の宿へ向かいながらシドに電話をかけた。数回呼び出し音が鳴る。
 
『なんだよ』
 と、ぶっきらぼうにシドが電話に出た。
「シドさん、今宿にいらっしゃいますか? お話したいことがあります。皆さんに」
『全員?』
「はい。ちょっと、お願いしたいことといいますか……」
『なんだよ』
「今そちらに向かっているんです。会えませんか」
 
シドは面倒くさそうに部屋の番号を伝え、電話を切った。室内を見遣り、出かけようとしていたベンを呼び止めた。
 
「向こうの連中が話したいことがあるそうだ。今向かってる」
「今からか。なんの話だ?」
 と、ベン。
「さぁな。会って話すくらいだ。面倒なことだろうよ」
 
それから数分後、部屋をノックする音がしてシドが戸を開けると、ルイが立っていた。てっきり何人かで来るのかと思っていたが、ルイだけだ。
部屋の中央にはローテーブルが置かれており、ジャックが座布団に座っていた。クラウンとジョーカーは奥の窓際に立っており、ベンとシドは部屋の端に立って腕を組んだ。
 
「話って何だ」
 と、シド。
「明日、次の鍵を探しに行く予定でしたが、少し待っていただきたいんです。他にどうしても調べたいことがありまして」
「調べたいこと?」
 と、ベン。
「アールさんのことです」
 
今更、彼らにアールが別世界から来たグロリアであることを隠す必要はなかった。完全に疑われているというより、完全に確信を持っている。共にアリアンの塔を探している時点でこちらも既に認めているのも同然だった。
 
「シドさんは覚えていませんか? ココモコ村で出会った少女のことを。彼女はアールさんの世界に存在する歌を知っていました。その歌をとある女性から教わったと」
「あぁ……」
 と、思い出す。
「それがエイミーという女性である可能性が高いのです。それで明日、彼女のコンサートがヌーベで行われるので、彼女と話が出来ないかと」
「…………」
 シドとベンは顔を見合わせ、考え込んだ。
「コンサートってことはアーティストか」
 と、ベン。外での旅が長く、芸能に関しては疎いのは全員同じだった。
「はい。おそらく警備は万全でしょうし、接触できるかどうかもわかりませんが」
「確かに気にはなるが、俺たちには関係ない」
「ですが考えてみてください。別世界の歌を知っている人がいるということは、アールさんの他にも彼女と同じ世界からこの世界へ来た人物がいると考えられます。彼女を召喚したのはギルトという魔術師です。他にも別世界から人を召喚させる力を持っている人物がいたのか、はたまた僕らが聞かされていないだけでギルトさんが他にも誰かを召喚していたのかは不明ですが、彼女に関することならば調べる価値はあるかと」
「…………」
 ベンたちは“他にも別世界から人を召喚させる力を持っている人物”という言葉になにか引っかかりを感じていた。
「皆さんにとってアールさんは世界を救う者ではなく、滅ぼす者だと思っているのでしょう。そんな危険人物についてちょっとしたことでも知っておくべきだと思いませんか。なにか他に重大な秘密でも隠されていたら、厄介だと思いませんか」
 
その言い方に、シドは目を細めた。例え組織側の立場に立っての言い方とはいえ、ルイらしくないと。
 
「何事もなければそれでいいではありませんか。アールさんに対する思いは違えど、彼女のことを調べたいと思う気持ちは同じでは?」
「こっちの言い分としては、彼女の存在が何故脅威となるのか一体何者なのか詳しく知りたいとは思うが、余計な時間は割きたくない。さっさと塔を見つけてお嬢さんの命を頂きたいと思っている。彼女の力がシュバルツ様の一部となり、この世界を守ってくださるだろう。彼女が何者だろうが、最終的にはどうだっていい。シュバルツ様が目覚め、アールという女がいなくなることが世界平和を呼ぶ」
「…………」
 ルイは険しい表情でため息をこぼした。
 
話しても無駄なら、勝手に行くつもりだ。はじめから了承を得なくても伝えるだけ伝えて行くつもりでいた。
 
「我々は先にアーテの館へ向かう」
 と、考えた末にベンが言った。
「では、僕たちは後からの合流でよろしいでしょうか」
「まぁ問題ない。鍵は俺たちが持っているわけだしな。それに4つの鍵を揃えない限りはアリアンの塔へは行けないからな」
「ありがとうございます。では、そういうことで」
 と、ルイは一礼し、部屋を出た。
 
シドは組んでいた腕を解き、部屋を出ようとしてベンに呼び止められた。
 
「どこに行くんだ?」
「部屋にいたってなんもすることねーだろ。外かVRCに行ってくる」
 
━━━━━━━━━━━
 
カイはベッドに横になり、ルイの帰りを待ちながらゲームをしていた。ヴァイスはいつも通り姿を消し、アールは窓際から外を眺めている。
 
「あ、ルイ帰って来た」
 窓の外からその姿が見えた。
「おなかすいたー」
 と、カイはゲーム機の電源を切って体を起こした。
「そういえばカイ、大活躍だったんだって? スコーピオン」
「あーぁ、まぁねー。ブーメランぶん投げるには狭いかなと思って参戦するつもりはなかったんだけど、潰せばいいんだと思って」
「ありがとね、カイ」
「うん」
 と、カイは嬉しそうに微笑んだ。
 
ルイは戻ってくると、部屋に備え付けてあるキッチンでさっそく夕飯に取り掛かった。カイは余程おなかが空いていたのかルイの後ろから何度も覗き込んでは料理の邪魔をしていたが、それも飽きるとベッドに戻って横になった。
アールは床に腰を下ろし、以前購入したレシピ本をめくった。シドが買ってきてくれたものだ。
 
「…………」
 シドのことが頭を過ぎると、他のことが頭に入らなくなる。読んでもいないレシピの文章を目で追いながら、シドを思った。
 
組織に入った人間は、最後はどうなるのだろう。望んで組織に入った者も入れば、ジムのように仕方なく入隊した者もいるに違いない。そういった人達はいずれ解放されるのだろうか。それともシュバルツが目覚めてからもずっと彼の手下として働き続けるのだろうか。
 
ドク、と、アールの心臓が脈打った。急に息苦しくなる。
 
「救えるのかな……」
 
私に。彼らを。シドを。もし死なせてしまったら……きっとお姉さんたちが悲しむ。そして私を恨むのかな。
誰のせいで死ぬことになるのだろう。全ては誰のせいで。
 
アールはハッと息を呑んだ。カイが横になっているベッドの下に、シオンがいたからだ。目を見開き、息をしていないシオンの姿がそこにあった。
 
「ッ?!」
 思わず立ち上がり、動悸がする胸を押さえた。
「アールさん……?」
「あ……」
「どうしました? 顔色が……」
 と、キッチンから様子を気にかけるルイ。
「…………」
 アールはベッドの下に視線を向けたが、立ち上がったため下が見えない。
「アールさん?」
「虫……虫がいたような気がして……」
 
ルイはアールの視線を辿ってベッドの下を覗き込んだ。なにもない。もちろん、隅々まで見たが虫もいない。
 
「いないようですよ?」
 と、気遣う。
「そう……ごめん、疲れているのかも」
 
どうしよう……。そう思った。また幻覚を見始めるなどごめんだ。冗談じゃない。やっと見なくなって克服したと思っていたのに。
 
「ココア、入れましょうか」
「ココア?」
「甘いものを飲むといいですよ」
 ルイは笑顔でそう言って、ココアを用意した。
 

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