voice of mind - by ルイランノキ


 相互扶助17…『キャバリ街』◆

 
一行はゲートを使って地下道の外へ出た。リンドン村の左奥、地下道へ入る穴とは反対側にゲートの出口があった。ホーツに一言挨拶をしておこうとルイは家へ向かう。
三部隊はゲートの前で待機することにした。
 
「アールさんも待っていてください。あまり動かないほうが……」
「大丈夫。私も挨拶しておきたいし」
 
ホーツの家を訪ねると、ホーツは驚いたように目を丸くして、無事に帰還したことを喜んだ。
 
「茶でも飲んで行かんどろん」
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで十分です。ところで、この村からなるべく近く、医療施設がある場所で、尚かつ第2の鍵がある場所へ向かうゲートがある場所をご存知ありませんか」
「条件が多すぎで難しいどろん」
「すみません……せめて病院がある場所だけでも」
「第2の鍵はアーテの館にあるんどん。そこに向かうゲートはないんどろん。近くまで行く街はキャバリ街だがん……ここから行けるけんど遠いどろん」
「おいくらくらいで行けますか」
「確かひとり1万2千ミルだどん」
「?!」
 あまりの高さにルイは言葉を失った。
「もっと安く行く方法はないんですか?」
 と、代わりにアールが訊いた。「あまり時間はかけられないけど」
「手前の街で降りて徒歩で行ぐか、誰かにヘリなり飛行機なりで行ぐっきゃねーどん」
「どっちにしろ時間が掛かりそうだね……」
「仕方ありません、お高いですが、ゲートでそのアーテの館に一番近い街まで飛びましょう」
「いいの……? ひと段落着いたら働くよ私……」
「大丈夫です、余計な買い物は避けましょう」
 
ホーツに別れを告げて、休む暇無く大金を叩いてキャバリ街へ移動した。
時刻は午後6時過ぎ。
キャバリ街の気候はじわりと汗が滲むような蒸し暑さだった。今日はここで宿を取り、一夜を明かすことにした。ルイはアールを連れて病院へ向かった。ヴァイスはルイに頼まれ、カイを連れて宿のチェックインを済ませた。カイは部屋に入るとすぐに床に寝転がった。
 
「つかれた……」
「…………」
 ヴァイスは部屋のカーテンを開け、外を眺めた。
 
キャバリ街。ところどころに小さな看板が立っているのが目に入る。そのどの看板にも同じマークが描かれており、多くの家が建っているものの夕方にしては外を出歩いている人があまりいない。
 
「そういえばなんか変な看板立ってたけどあれなに?」
 と、カイ。
「知らないのか」
「なんだよー、私は知ってますけどね? 的な言い方!」
「そんなつもりはないが……」
「なんか宗教的なもの? 人の目のイラストに赤いバッテンが描いてるマーク。なんだか気持ち悪ーい」
 
その頃、病院の待合室にいたアールも同じ事を言っていた。
 
「あのマークなんだか気味が悪いんだけど、なに?」
「あれは……あとでよろしいですか?」
 と、ルイは言葉を濁した。
 
「目には目を?」
 と訊いたのはカイだ。
「犯罪者に対する警告だ。人を殺した者は同じ方法で殺される。動機によっては死刑とまではいかないが、目には目を、歯には歯を、という風習が残っている地域を表すものだ」
「ほぇ……なんか怖い。ん? 違うか。犯罪者が少ないのかな、同じ目に合うなら犯罪を犯そうなんて思わないし!」
「罪人が送り込まれる場所でもある」
「へ? どういうことさ」
「刑務所にも人数制限はある。犯罪者を更生させて放ってもまた同じ繰り返しを行う者も多い。そういった罪人が送り込まれる場所だ。国が見てみぬふりをしている理由はそこにある」
「……不気味!」
「往生際が悪い罪人も大人しくなるだろうがな」
 
アールの火傷は皮膚の爛れが酷かったが、塗り薬と飲み薬で完治できるものだった。外で旅をしているのなら聖なる泉になるべく長く浸かるようにと医師から勧められた。
 
「薬代、私のお小遣いから引いておいてね」
「いえ、大丈夫ですよ」
 と、ルイは財布をしまい、受け取った薬をアールに渡した。
「大丈夫じゃないよ、だってゲート代高くついた……し……」
 と、病院から一歩外に出て、足を止めた。
「どうしました?」
「忘れてた! エイミーのコンサート!」
 
エイミーのチャリティコンサートは明日だ。 ルイは慌てて地図を広げ、現在地とコンサートが行われるヌーベを確認した。かなり距離がある。キャバリ街に移動する前に気付くべきだった。
 
「僕としたことが……」
 ルイもすっかり忘れていた。無理もない。
「どうしよう……諦めたほうがいい……よね」
「ですが、気になりますからね。アールさんの世界の音楽を知っていた女性」
 ルイは地図をしまい、金銭出納帳を取り出した。
「全員を連れて行くのは厳しいですね。アールさん一人で行かせるのは心配ですし……カイさんにはヴァイスさんと留守番を頼みましょうか。行きたがれば僕が留守番を。ヴァイスさんは人ごみが苦手でしょうし」
「シドたちには話した?」
「すみません、話す暇がありませんでした。別の宿にチェックインしたようなので、あとで行ってみます」
「電話にはでない? シド……」
「出ないことはないとは思いますが……直接言ったほうが早いかと」
「そっか。──ほんとごめんね。なんか無駄に出費が多くて」
「アールさんが謝ることではありませんよ」
「シドがいたら……魔物狩りで稼げたのに。私が行こうか……?」
「汗をかくと火傷に染みて痛いでしょうし、安静にしていてください」
 
出納帳を閉じ、宿へ向かう。その途中で何度も目にする奇妙なマーク。そのマークを興味深げに見ているアールに、ヴァイスがカイに説明したとおりにルイも彼女に説明した。
 
「怖い街なの?」
 と、小声で訊く。
「いえ、昔ながらの風習が残っているとはいえ、至って他の街と変わりありません。住人が少し大人しいというところでしょうか。犯罪が起き、公開処刑が行われるときは騒がしくなりますが」
「公開処刑……」
「処刑台が街の奥にあります。そこは普段闘技場として使われている場所です。罪人が送り込まれる街と聞いて興味本位でこの街に来る輩もいて、そういった者達も含め、客席はほとんど埋まるようです」
「興味本位って……?」
「人の心理は複雑です。人が痛めつけられているのを好んで見る方もいらっしゃる、ということです」
「…………」
 
アールは気味悪そうな顔で口を閉ざした。外観は綺麗でのんびりと過ごしやすく思えたキャバリ街だったが、今はこの街の中を漂う蒸し暑さの空気や人の息遣いなど全てに気持ち悪さを感じる。
 
「……罪人ばかりってわけじゃないんでしょ?」
「えぇ、勿論です」
 

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©Kamikawa
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